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騒がしい女 1
「いて……」
目覚めた時の第一印象は、苦痛だったと思う。近いものを上げるなら筋肉痛。
まあ無理のない話だ。魔術の使用はざっと五年ぶりになる。アレだけの激戦を繰り広げたのもあって、当然の成り行きだ。
ふと、魔物の姿が脳裏を過る。
「っ」
心が崩れそうになって、角利は勢いよくかぶりを振った。思い出したって得るものはない。情けなかったが、最低限の仕事は果たせたのだし。
そうだ、倒した。事件の時に何も出来なかった自分が、今度は人を守れた。
考えないと決めたばかりでも、好ましい結末が負担を和らげてくれる。
もっとも、これで二度と症状が起こらないとは思えない。大体にして、原因中の原因が分かっていないのだ。思い出そうにも苦痛だし、記憶自体が断片化している。
焦っちゃいけない――いつかの励ましを胸にして、軋む身体をベッドから起こす。
「あ」
「?」
あまりに出来過ぎたタイミングの、来訪者。
フェイだった。制服姿の彼女は、何かに驚いて目を丸くしている。こちらが起きて、不都合だとでも言わんばかりだ。