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傷の話 5
「まあ角利君は基本お人好しだから、遠慮する必要なんてないよ。フェイちゃんの事情を知ったら、むしろ力になってくれると思う」
「その前に、怒るのが先では?」
「そういう方向性の根性は無いと思うけどなあ」
苦笑を混ぜながら、由利音はフェイのベッドを離れる。どうやらお別れの時間らしい。
見送ろうとして立ち上がるが、客人の手に制された。
「さて、じゃあ私は失礼するね。角利君なら隣りの病室にいるから、気が向いた時に顔を見せてもらえると嬉しいな」
「? まだ眠っているのでしょう? でしたら――」
「角利君のためじゃなくて、フェイちゃんのため。さっきも言ったけど、気分が落ち着くんじゃない?」
心を見透かされているような、厳しくて優しい指摘。
反論することもなく、フェイは彼女の背を見送った。