傷の話 3
「私は当時学生でね、ギルドの手伝いと称して中に入ったんだけど――酷かった。血の海って本当にあるんだー、って馬鹿らしく納得したぐらい。どうも魔物に襲撃されたらしくて、四治会のメンバーは全員やられてた」
「ですが、会長は……」
「多分、皆が守ってくれたんだろうね。でもその日から彼、魔術とか魔物とか駄目になっちゃってさ。PTSD……ようはトラウマかな。だから学園でも、実技に参加できなくて」
「しかし先ほど、魔術を行使しましたよ?」
「敵と一対一なら平気みたいでね。でもほら、学園の実技授業って集団で、魔物を相手にじゃない? 人前で使うのは駄目って言うか、そもそも人混みが苦手らしくて」
「……」
ならあの時。ギルドの青年を庇ったのは、無茶以外に何でもなかったのだ。
酷いことを強要させてしまった。ひょっとしたら彼は、目の前で両親を亡くしているかもしれないのに。それを思い起こさせる行為を、自分は行わせてしまった。
今更の罪悪感に胸が軋む。
角利はどうしようもなく強くて、フェイはどうしようもなく弱かった。自分にも事情がある? 何て馬鹿げた言い訳だろう。過去に立ち向かった彼の方が、よっぽど痛い思いをしてる。後で、きちんと謝罪しなければならない。
「でさ、一つ頼みたいんだけど」
「はい?」
「……角利君の面倒、出来る限りでいいから見てやってくれない?」
「え――」
少し意外な、けれど必然にも感じるような。
柔らかい口調のままで、由利音は話を続けていく。