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傷の話 1
「――ちゃん、フェイちゃーん」
「ん……」
重い目蓋を開けると、強い光を感じて目が眩む。
その正体を掴む前に、フェイは一人の女性を認めた。二十代半ばはありそうな、和やかな雰囲気を持った女性を。
「どちらさまですか……?」
「私? 私は、由利音。貴女が色々やらかした近くのコンビニで働いてる、しがない元魔術師よ。……ところで身体は? まだ痛み、残ってる?」
「……いえ、ほとんど」
自分はベッドに横たわっていたらしい。布団の中だが、軽く身体を動かしてみる。
ゴーレムに打たれたのが嘘みたいだ。痺れるような感覚は少し残っているが、他は万全な状態と言っていい。直ぐにゴーレムと再戦、なんて羽目になっても大丈夫だろう。
反面、助けた少年の姿が頭を過る。
彼は果たして無事だったのか。惚けている身体をゆっくり起こすが、視界の中には見当らない。空席のベッドがいくつか並んでいるだけだ。