満身創痍 5
「……ようやくその気になりましたか」
至近距離を危険と断じたらしく、彼女は跳躍して距離を取る。
事実重い腰を、ゆっくりと上げる角利。背後には青年が逃げたであろう路地裏が。ここは絶対に通せない。
彼が死ぬのは勝手だが、誰かに殺させるのは認められない。
幽鬼にでも間違われそうな眼光。失神の一歩手前で、少女達の壁になる。
「う――」
限界は直ぐ訪れた。
膝から折れた角利は、全身の震えに足掻くのみ。……くそっ、情けない。魔剣を出した程度でこのザマとは。
「既に満身創痍でしたか。――まったく」
真意の分からない嘆息を零し、フェイがこちらに近付いてくる。
この瞬間、確かに角利は諦めた。
やっぱり、自分には無理だったと。
しかし一人、戦力になる存在が残っていた。
「xifos!」
青年の声が、フェイの進行を抑えこむ。
その隙を狙い、青年は角利の腕を掴んだ。頭上にはフェイへ降り注ぐ剣の群れ。魔剣と同様、武装召喚と呼ばれる魔術の一環だ。
鎧には掠り傷も与えられないが、時間を稼ぐ点では十分。それ以上の成果なんて望むもんじゃない。
選ぶ逃走ルートは建物と建物の隙間。
希望へ縋るように、二人は裏手へと進んでいく。
青年に助けられた――そんな、疑いたくなる結末と共に。