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満身創痍 4
青年の気配はいつの間にか消えていた。こちらが苦悩している間に逃げたんだろう。フェイが近付いてきた辺り、角利の後ろへ向かったのか。
足元が覚束ないまま、壁として立ち上がる。
「……可能なら動機をお答え頂けますか? 社会の規則、なんてものはくだらないので、他で」
「そうだな……」
冷静に考える余裕はない。本能的な、反射的な解答が喉を突く。
「あんな奴のために、フェイが間違いを犯すのは変だろ」
「面白いことを仰いますね。ですが――」
逃げられない。他に浮浪者が動く気配もなく、絶望的な構図に固まっていった。
「貴方に、私の何が理解できると?」
短過ぎる挨拶。振り下ろされる無情の剣。
それが、男の矜持に火をつけた。
「っ――!」
風が舞う。莫大な魔力が、実体を帯びる前から現実に干渉していく。
顕現する漆黒の魔剣。
美しさすら備えた片刃の長剣が、フェイの一撃を受け止めた。