満身創痍 3
一閃のもと、両断する。
――筈だった。
浮浪者の一人だ。相当な金が約束されているのか、満身創痍でも立ち向かってくる。
この気を逃さず逃げるしかない。青年を説得する必要もあるが、彼だってフェイがどれだけ危険なのか分かっている筈だ。
棒立ちしている青年の元へ、角利は善意から歩み寄る。
「寄るな!」
頭ごなしに怒鳴られた。
拒絶を体現するのは雇われた浮浪者たち。魔術を使っていない相手だろうと、喜々として魔剣を手にする。
角利はなおも魔術を使わない。いや使えない。
過去の傷を開くなんて。それを連想する状況で、どうやって成せと言うのか――
「ふ――!」
割り込んだのは、青い矮躯だった。
彼女はその後も敵と対峙する。まるで角利を庇うように。
しかし甘えるわけにはいかない。反対しなければ、彼女は殺人を犯してしまう。
「っ――」
その光景を思い描いた途端、全身の悪寒が強くなった。
振り払おうと、角利は何度も首を振る。が、効果は表れない。妙な話だがこのままじゃフェイの足枷になってしまう。
落ち着けと心で唱えるものの、呼吸は荒くなる一方。思考は千々に乱れ、優先すべき目的すら見えなくなる。
真後ろで響く剣戟。急げと頭でいくら命じても、身体は言うことを聞かない。
頭の中に過るのは、血の海。自分が何かを、大切なものを断った事実。
誰が? 誰かを?
どうしようもなかった?
いや違う、自分が、この手で――
「はあっ!」
「ぐ……」
轟音と共に、戦いの音色が途切れる。
どうにか振り向いた先にはフェイがいた。彼女は呼吸すら乱さず、淡々と獲物を見下ろしている。