満身創痍 2
再び立ち上がろうとする者は一人もいない。
圧倒的な力による蹂躙。実技評価Sの実力を再び垣間見て、角利は唖然とするだけだった。逃げてくれ、と頭の中で必死に繰り返しながら。
「さて会長、私を止めますか? 評価Eの実力では足止めすら叶わないと思いますが」
「大層な自信だな……」
「いいえ、必然的な結論と仰ってください。ほかの魔術師が見たところで、同じ言葉を口にするでしょう」
まったくその通り。魔術を発動していない人間など、時間稼ぎの壁にもなるまい。
角利に出来るのは言葉を使うぐらいだった。せめて後ろの青年が逃げてくれれば。自分一人なら最悪、逃げ切れる自信はある。フェイはこの辺りの地形に詳しくない筈だ。
「……一度も抵抗していない相手を切るのは抵抗があります。そのままじっとしていれば、見逃しても構いませんよ?」
「そりゃどうも。でも後々、後悔するって分かってるんでね」
「なら仕方ありません」
剣を掲げる。未だ精神的な問題が解決できない角利へ、力の意思が示される。
しかし、変化は他にも起っていた。
魔剣と同じ仕組みで、鎧が成る。女性らしい輪郭を残したままの全身甲冑。海のように深い青は彼女の瞳と同じで、角利が叩き付けた感情を見透かすようだった。
怖いんだろう、と。
言葉での解決を望んだ臆病者を貶して、心理の瞳が覗いている。
「会長、意思があるのなら剣を抜きなさい。自身を肯定するのなら、力で以て私を屈服させなさい。でなければ私は、信念に則った選択を取るまで」
「……」
それでも角利は動かなかった。フェイを正面から睨み、力を用いない解決に固執する。
どこか聖職者じみた、清々しいまでに磨かれた意思。
彼女はそれを、鼻で笑うことしかしなかった。
「理想論者、と言うのでしょうね。誰も傷付けず、和解を手にしようとするのは。ですが――」
振りかざされる魔剣。
彼女の瞳は、もはや慈愛の欠片すらなく。
「無力な者が行き着くだけの、妥協でしかありません」