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魔術師は現代社会に殺される  作者: 軌跡
第一章 EとS
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満身創痍 2

 再び立ち上がろうとする者は一人もいない。

 圧倒的な力による蹂躙じゅうりん。実技評価Sの実力を再び垣間見て、角利は唖然あぜんとするだけだった。逃げてくれ、と頭の中で必死に繰り返しながら。


「さて会長、私を止めますか? 評価Eの実力では足止めすら叶わないと思いますが」


「大層な自信だな……」


「いいえ、必然的な結論と仰ってください。ほかの魔術師が見たところで、同じ言葉を口にするでしょう」


 まったくその通り。魔術を発動していない人間など、時間稼ぎの壁にもなるまい。

 角利に出来るのは言葉を使うぐらいだった。せめて後ろの青年が逃げてくれれば。自分一人なら最悪、逃げ切れる自信はある。フェイはこの辺りの地形に詳しくない筈だ。


「……一度も抵抗していない相手を切るのは抵抗があります。そのままじっとしていれば、見逃しても構いませんよ?」


「そりゃどうも。でも後々、後悔するって分かってるんでね」


「なら仕方ありません」


 剣を掲げる。未だ精神的な問題が解決できない角利へ、力の意思が示される。

 しかし、変化は他にも起っていた。

 魔剣と同じ仕組みで、鎧が成る。女性らしい輪郭を残したままの全身甲冑フルプレート。海のように深い青は彼女の瞳と同じで、角利が叩き付けた感情を見透かすようだった。

 怖いんだろう、と。

 言葉での解決を望んだ臆病者をけなして、心理の瞳が覗いている。


「会長、意思があるのなら剣を抜きなさい。自身を肯定するのなら、力で以て私を屈服させなさい。でなければ私は、信念に則った選択を取るまで」


「……」


 それでも角利は動かなかった。フェイを正面から睨み、力を用いない解決に固執する。

 どこか聖職者じみた、清々しいまでにみがかれた意思。

 彼女はそれを、鼻で笑うことしかしなかった。


「理想論者、と言うのでしょうね。誰も傷付けず、和解を手にしようとするのは。ですが――」


 振りかざされる魔剣。

 彼女の瞳は、もはや慈愛の欠片すらなく。


「無力な者が行き着くだけの、妥協だきょうでしかありません」

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