彼らのお仕事 5
「私は群れている魔術師が嫌いです。それは魔術の価値、権威を恥かしめるモノ。私たちが希少な存在である以上、群衆となる必要はないでしょう?」
「な――」
青年の態度は一転、驚愕へと切り替わった。
現在の魔術師を否定する発言。その特権と価値を掲げる者は、決して少ないわけではない。世代としては少し前、角利の祖父ぐらいにまで遡るのだが。
故に、青年は意外を感じたのだろう。角利も唖然とするだけだった。まさか祖父と同じような思想を、同い年の少女が語るとは。
「ち、血迷っているのか!? いま時、そんな化石のような理想を――」
「結構です。私の信じるものを、赤の他人にまで共有してもらおうとは思いません」
「……そうかね。では君達」
「っ」
殺意に満ちた目が二人を睨む。浮浪者も含めて、数は十人強。評価Sのフェイ一人でもどうにかなる人数だ。
しかしこの状態で倒していいのかどうか。相手が大手ギルドである以上、逆に問題を深刻化させてしまう。
「死ね」
傲慢な性格に雇われ、浮浪者たちは一斉に飛び掛かった。
しかし一閃。
迷いもなく、フェイが彼らを蹴散らしたのだ。
「――」
開いた口が塞がらないのは、角利も青年も一緒。
宙に打ち上げられた、敵勢は生々しい音を立てて落ちてくる。全員が呻き声を漏らしている辺り、死者は出ていないらしい。
もちろん、今後については分からないが。
「ひっ」
フェイが一歩、前に出る。
青年は怯えて後退するだけだ。直ぐ反撃しない辺り、戦闘系の魔術師ではないらしい。すっかり青ざめて、走り出す瞬間を探っている。
彼女は本気だ。威嚇しているわけではない。横からも分かる侮蔑の眼差しを、怯えきった魔術師に向けている。
手に握られているのは一本の剣。魔力で編まれた、魔剣と呼ばれる代表的な魔術だ。浮浪者を打ち上げたのもソレによる一撃だろう。
あふれるばかりの殺意。青年が向けたものが児戯に思えるほど、フェイの信念は鮮烈だった。
このままじゃ、取り返しのつかないことになる。
「止めろっ!」
庇う必要なんてないのに、ついつい漏れてしまった本音。
同じだけの敵意が、角利に向けられた瞬間だった。