彼らのお仕事 4
来る時と同じ景色が広がっているが、心なしか色合いは別にも見えていた。恐らく心情の変化だろう。真相はどうあれ仲間を得たことに、自分は強い安心感を抱いているらしい。
「……にしても、どうしてうちへ? 君のレベルだったらもっと良いギルドがあるだろ?」
つい、疑問が口を突く。濫りに聞くべきじゃないだろうに、好奇心が優先されてしまった。
しかし杞憂は無駄に終わる。彼女はキビキビとした姿勢のまま、変わらない口調で喋り出した。
「こういったギルドなら、私の力が存分に活かせると思いまして。大手はすでに自立しているわけですから」
「な、なるほど。乗っ取らないように注意する」
「ええ、そうしてください」
長い髪を首の辺りで抑えながら、フェイは角利の一歩前へ。力関係で負けているような気がして、すかさず横に並ぶ。
あとは雑談もない無言。重苦しい空気は予行練習だと思って耐えるしかない。
しかし正面。路地の出口からは、まだ数メートルも離れた場所。
赤いローブを羽織った、一人の青年が立っていた。
「フェイ・モルガンだな?」
「……」
少し間を置いて、彼女は首を縦に振る。
青年は満足気に頷いた後、一度だけ指を鳴らした。
途端、二人を囲むように浮浪者たちが集合する。それぞれの手には淡い光。魔術の行使を秒読み段階にまで控えているのは間違いない。
「何のおつもりで?」
淡々と言い返すフェイ。ある意味、挑発とも取れる言動だった。
なので。
青年は即座に感情へ火をつける。手にしている紙を握りつぶし、こめかみに青筋を浮かばせて。
「我々の誘いを断るとは、どういう了見だ!? ましてやこんな弱小ギルドに所属するなど……! 東京で五本の指に入るギルド・テュポーンと知っての狼藉か!?」
青年はみっともないぐらいにまくし立てる。もう少し煽れば、泡でも吹き出しそうな錯乱ぶりだ。
テュポーン。ギリシャ神話に登場する、怪物の名を頂いた大手ギルド。確か政府にも繋がりがある大御所だ。
呼び掛けられた少女は、しかし平然としたまま。
角利の方は、青年の意見に納得するしかなかった。それが当り前のこと。所属を選べるほど、現在の魔術師業界は豊かじゃない。
「気に入らなかったので」
などと。
もはや挑発を超えて、少女は敵意を叩き付けていた。