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魔術師は現代社会に殺される  作者: 軌跡
第一章 EとS
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彼らのお仕事 4

 来る時と同じ景色が広がっているが、心なしか色合いは別にも見えていた。恐らく心情の変化だろう。真相はどうあれ仲間を得たことに、自分は強い安心感を抱いているらしい。


「……にしても、どうしてうちへ? 君のレベルだったらもっと良いギルドがあるだろ?」


 つい、疑問が口を突く。濫りに聞くべきじゃないだろうに、好奇心が優先されてしまった。

 しかし杞憂は無駄に終わる。彼女はキビキビとした姿勢のまま、変わらない口調で喋り出した。


「こういったギルドなら、私の力が存分に活かせると思いまして。大手はすでに自立しているわけですから」


「な、なるほど。乗っ取らないように注意する」


「ええ、そうしてください」


 長い髪を首の辺りで抑えながら、フェイは角利の一歩前へ。力関係で負けているような気がして、すかさず横に並ぶ。

 あとは雑談もない無言。重苦しい空気は予行練習だと思って耐えるしかない。

 しかし正面。路地の出口からは、まだ数メートルも離れた場所。

 赤いローブを羽織った、一人の青年が立っていた。


「フェイ・モルガンだな?」


「……」


 少し間を置いて、彼女は首を縦に振る。

 青年は満足気に頷いた後、一度だけ指を鳴らした。

 途端、二人を囲むように浮浪者たちが集合する。それぞれの手には淡い光。魔術の行使を秒読み段階にまで控えているのは間違いない。


「何のおつもりで?」


 淡々と言い返すフェイ。ある意味、挑発とも取れる言動だった。

 なので。

 青年は即座に感情へ火をつける。手にしている紙を握りつぶし、こめかみに青筋を浮かばせて。


「我々の誘いを断るとは、どういう了見だ!? ましてやこんな弱小ギルドに所属するなど……! 東京で五本の指に入るギルド・テュポーンと知っての狼藉か!?」


 青年はみっともないぐらいにまくし立てる。もう少し煽れば、泡でも吹き出しそうな錯乱ぶりだ。

 テュポーン。ギリシャ神話に登場する、怪物の名を頂いた大手ギルド。確か政府にも繋がりがある大御所だ。

 呼び掛けられた少女は、しかし平然としたまま。

 角利の方は、青年の意見に納得するしかなかった。それが当り前のこと。所属を選べるほど、現在の魔術師業界は豊かじゃない。


「気に入らなかったので」


 などと。

 もはや挑発を超えて、少女は敵意を叩き付けていた。

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