彼らのお仕事 3
「凄いな……」
「妖精の派遣業務を行っているギルドに依頼しただけです。状況は限られますが、便利ですよ、彼ら」
「よ、妖精の派遣? 初耳なんだが……」
「無理もありません。彼らは非常に悪戯好きで、高位の魔術師にしか従いませんから。複雑な作業には不向きですし、根本的な性質上、利用料金が高いので」
「悪徳商売にしか聞こえん……」
でも、魔術社会では珍しくない話だ。
魔術とは基本、特権に近い。遺伝的な才能がなければ使えず、例外はごくわずか。魔術師自身の成長もかなり限定的で、生まれながらの素質が成否を決めている。
言ってしまえば、血統を重視した中世的なシステム。権力を手にした勝者たちの凱歌を形にした統制。
しかし、近代化の波がすべてを砕いた。王制の絶対性が失われていくのと同じように、魔術は凋落し始めたのだ。
「正直、お掃除ロボットでも買った方がマシでしょうね。短時間で労働力を動員するには、悪くない選択ですが」
「……人を雇った方が安いとか、そういうオチもありそうなんだが?」
「あら、よくご存じで」
微笑してから、彼女はコーヒーを一気に飲む。
妖精たちもちょうど仕事を終えたらしい。きっちり絞られた雑巾が、自らカウンターの上へ転がる。
「では学園に戻りましょうか。今からでしたら余裕でつきます」
「それがいい。さすがに俺も、遅刻はしたくないんでね」
空になったカップは洗い場に。せっかく妖精たちが頑張ってくれたんだ、帰ったら忘れずに片付けよう。
店の出入り口を閉め、二人は同じ方向へ踵を向ける。