目覚め、そして美少女 5
しかしこれはチャンスだ。みすみす逃したら、一生後悔する。
裏の事情は間違いなくあるだろう。ただ魔術師として活動したいのなら、彼女は座して待つだけでよかった。にも関わらず、わざわざこんな場所にまで出向いている。
「分かった。じゃあ、今日からでも宜しく」
背に腹は変えられない。
彼女が信じるに足る人物であると、自分に言い聞かせるしかない。
「ありがとうございます。――ではさっそく、この辺りの清掃から始めても宜しいでしょうか? 会長はこれからお昼でしょう?」
「あ、ああ、そうだけど……いいのか?」
「ご心配なく。家事は得意です」
「いや、そうじゃなくて――」
フェイは事務的に頭を下げると、直ぐ行動を開始した。埃まみれのテーブルや椅子を、店の外へと持ち出していく。細身に見えて案外と力持ちらしい。
お陰で室内は一瞬にして埃まみれとなった。とてもじゃないが食事をする場所ではなく、角利は急いで店の奥へと避難する。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! マスク取ってくる!」
何の用意もない状態じゃ、彼女が酷いことになりそうだ。
慌しい足取りでマスクを探しながら、しかし角利は思う。
この店が騒がしくなるなんて、いつ以来の話だろうかと。