魔物の正体 12
「く……!」
「由利音よ、貴様は頭のいい女だ。なら理解していよう? 貴様らがどれだけ足掻こうと、この身に届くことはない」
開くドラゴンの口。
「や、止めて……止めええぇぇぇえええ!!」
「ふん、懇願したければするがいい」
誰も逆らえない、誰も手を出さない。
一飲み、だった。
「あ、ああ……」
ドラゴンは咀嚼すらせず、喉を動かしただけ。弱肉強食。御法がよく口にしていた観念の、まさに体現と言っていい光景だった。
満足気に腹をさすると、空へ二度目の咆哮を叩き付ける。
「ではな。近いうちにまた会おう」
「まて……!」
無論、止められる筈がない。翼の羽ばたきだけで、角利の身体が浮きそうになる。
巨体に似つかわしくない、一瞬の急上昇。
何もかもがあっという間だった。抵抗はまるで許されなかったし、何が起こったのかも現実味がない。悪い夢でも見ている気分だ。
「……角利君」
「あ」
優しく肩を叩かれるが、それは自分に向けたものじゃない。
フェイだ。彼女はうわ言を呟きながら、ドラゴンが去った空を見上げている。
「君達のことは、私が適当に誤魔化しておくから。だから、ゆっくり休んでて」
「……はい」
長い長い、一日の終わり。
ここにいる誰もが、目を逸らしたい顛末だった。