魔物の正体 10
「ヴィ、ヴィヴィア? 分かる? 私よ?」
「っ――!」
声すら不快なのか、魔物は姉に向かって唸るだけ。
フェイの様子はもう、普段とはまるで違う。薄っすらと涙を流し、いまにも世の理不尽を訴えそうだ。
しかし、不安は誰しも同じだったろう。
角利はまだ戦闘が可能ではなく、由利音も攻撃を躊躇っていた。――吹き飛ばした片腕からは、ヴィヴィアの肉体を構成する魔力が解けている。魔物の常識で測れば、追撃は彼女の生死を左右しかねない。
「……どうします?」
「難しいねー。ほかの連中が来れば、説明したところで攻撃、って可能性もあるし。上手く拘束できればベストだけど……」
「暴れますからね」
方向性を変えるしかない。だが、どんな風に?
時間は刻一刻と過ぎていく。一発逆転の対策を打たなければ、このまま最悪の結果を待つだけだ。
途端。
「っ!?」
耳を聾する爆音――いや咆哮が、森全体を揺さ振った。
燃え盛る炎すら、存在を恥じるような猛々しさ。ワイバーンに似ているがどこか違う。いや、完全に上回っている。
頭上を覆う、巨大な影。
もう。何が現れたかは、言うまでもなかった。
「ど、ドラゴン……!?」