ワイバーンと紅い軍勢 15
頭痛や身体の震え、以前のような発作は既に起っていた。トラウマが克服されたのは魔物に対してだけらしい。人間、魔術師と戦うのはまだ難しそうだ。
夜に慣れつつある視界は、木々の密度が薄くなったことを教えてくれる。
――いや、違う。
炎だ。
炎の雨が、頭上から降りそそいでいる……!
「んな……!?」
魔術師か魔物か――判断するより先に、本能が行動をうながした。
外に向かって走る。フェイを呼びに戻りたいが、森林の一部は火の壁と化していた。戻ろうにも戻れないのが実状である。
待機している箒の横。露わになった夜空を、巨大な飛行物体が舞っている。
巨大な二枚の翼、蛇のような眼光。全身を覆っている鱗は鉄のようで、鈍く月光を反射していた。
長い尾は鋭利な棘を、足の爪は刃に似ている。全身が凶器で出来ていると言っても過言ではなく、眼光ですら生き物を殺せそうだ。
ワイバーン。
魔物の最上位であるドラゴンに連なる存在。自由気ままに口から炎を撒き散らし、代々木公園を紅蓮の世界に変えている。
町の方からはサイレンが聞こえていた。飛行可能な魔物の出現は、夕方のオーク以上に人々を混乱の渦へ突き落しているだろう。
「……!」
ふと。
ワイバーンの双眸が、角利を睨んだ。