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ワイバーンと紅い軍勢 14
何故? テュポーンは二人に対して謝罪した筈だ。この後に及んで攻撃してくるなんて、理が通らない。
一部の暴走? あるいは他に狙いがあるのか?
角利が首を捻っている間に、無数の足音が近付いてくる。フェイは直ぐに電気を消した。もし包囲されたとなれば、居場所を知らせるサインにしかならない。
「戻りましょう。私から離れないで」
「りょ、了解」
魔剣を利き手に、もう片方の手には角利を握って、彼女は暗闇の中を先行する。
まだ目も不自由だろうに、そんな心配は微塵も感じさせなかった。思わずホッとしてしまう意思の強さが、今のフェイからは伝わってくる。
――敵も怯んでくれたら、どんなに楽な逃避行だったか。
「っ!」
魔剣と魔剣の激突。火花の代わりに飛び散った魔力の欠片が、辺りを一瞬だけ明るくする。
やはり、同じ格好をした魔術師だった。青年のように狂っている様子はなく、冷静にフェイとの立ち回りを演じている。
「会長は先に向こうへ。……他にも何名かいます、私が囮にまりますので」
「――分かった。くれぐれも無理はすんなよ?」
「ええ」
無力感を嚥下して、角利は走る。