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ワイバーンと紅い軍勢 13
「立てますか?」
「おう、何とか……しかし何度目だ? 肩貸してもらうの」
「さあ? 別にわざわざ数えてはいませんよ。貴方が悪く思う必要だってないんですし」
「それは俺の前に、自分に対して言ってくれ」
「い、嫌ですっ。性格なので」
ムキになって顔を逸らすが、こちらから離れようとはしなかった。姿勢が戻って、何度か深呼吸を繰り返した後に間合いを置く。
そうして歩き始めた、直後だった。
牢を閉ざすような重低音が、森一帯に響いたのは。
「――」
呼吸さえ飲み込みそうな静寂。虫の羽音さえ、集中力をかき乱す。
瞬間。
頭上から飛びかかる人影。
「ふ――!」
「がっ!?」
カウンターとして放たれたフェイの魔剣は、見事に人影を打ちのめした。打撃音が聞こえた辺り、刃は向けなかったらしい。
正体を確かめるべく、握った電灯を影に向ける。
いたのは。
「この格好……」
あの青年と同じローブを着た、魔術師だった。