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ワイバーンと紅い軍勢 11
「それがあの人の本音だっただけだろ。結局、無知がバカを見ただけさ」
「……宜しいんですか? それで。もしかしたら、説得できる余地があるかもしれませんよ?」
「俺には出来ないぞ? 爺さんにどんな理由があっても、殺しは殺しじゃないか」
「……」
角利はこれまでにないほど饒舌だった。俯いている彼女を無視して、怒りを滲ませるように語っていく。
――でも本当は、彼女に対して言ってるんじゃなくて。
自分への、言葉なんだろう。
「真実なんて、俺達の都合は考慮してくれない。だから俺は、俺の感情に従って動くさ」
「それが、決定的な断絶を生み出すとしても?」
「……ああ」
後悔はしたくない。
四治事件からずっと、それを夢に描いてきた。もちろん夢だから、実現できていたかどうかは定かじゃない。
でも、今なら出来る、続けられる。
あの事件を直視する日が、ちょっとずつ近付いて――
全身に走った悪寒が、角利の歩みを止めさせた。
やはり、直ぐにフェイが頭を下げてくる。魔物に少し耐性が出たとはいえ、根っこの部分はまだまだらしい。