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こちらアルパ貿易商社  作者: 四葦二鳥
第2章 レアメタル・コモンメタル
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JPZとの交渉

 新たな面会のアポを打ち切ったため、僕もルイも負担はだいぶ減った。ただ、面会を打ち切ると知られてからは、来る客全員が必死の形相で話していたが。

 中には強硬手段に及ぶ人もいたが、そこはアルパ星の科学が誇る防犯システムでお帰り願った。

 具体的にどうやって追い払ったかというと……あまり言いたくない。かなりえげつない方法で、しかも社会的に確実に抹殺するのだ。おかげで二度と顔を合わせずに済むという利点があるが、もう見たくない程、凄惨な光景だった。


 ともかく、そういう事があったせいで面会が出来る最後の一週間は普段よりも負担が何倍にもなったが、週が明けてみると天国と地獄の差の様に、仕事が楽になった。

 そのかわり、会社の前の人通りが増えた気がする。おそらくスパイの類だろうし、確実に盗聴・盗撮・通信の盗み見はされているだろう。

 でも心配ご無用。この会社はアルパ星の最新科学や情報技術に基づいたセキュリティが備わっており、盗聴や盗撮なんかをしても、意味不明な音しか聞こえないし、写真もいつの間にか改ざんされているのだ。

 通信に関しては、自動でカウンターを仕掛けウイルスに感染させる。しかも盗み見をしている当人にとっては、盗み見が成功している様に見えているという、えげつない仕様だ。

 アルパ星の人達は、えげつないのがよっぽど好きなのだろうか?


 まぁこちらのセキュリティは、今の地球人には絶対に破れないので、こちらの動きに気付きにくい。これからアクションを起こそうとした結果、市場が荒れまくる心配はないし、足を引っ張ろうとする連中も簡単には動けないはずだ。

 なので、ゆっくりとリサーチに取り掛かった。


 ルイとお父さんとで手分けして調べた結果、地球側の取引先として『日本亜鉛』、通称『JPZ(Japan Zincの略称)』に決定した。

 理由としては、一つ目に地球側の取り扱い金属を亜鉛一本に絞るためである。最初の事業なので、欲を出してあちこちに手を出した結果、キャパシティーオーバーして事業が失敗するのを防ぐためだ。

 

二つ目に、日本の亜鉛取扱量が一番多いためである。向こうも新しく取引先を作る訳だから、当然在庫配分に気を配る必要がある。そうなると、在庫が少ない企業では新しく取引相手を作る余裕がない。

それに比べて取扱量が多く、在庫もたくさんあるJPZならば、新しく取引先を作る余裕もあるはずだ。


 三つ目に、大国以外に主要鉱山があるからである。

 ここで言う『大国』とは、世界中の政治・経済に多大な影響を与える国の事で、現在の所アメリカ、中国、ロシアである。面会していた時も、この三国の関係者がダントツで多く会っていた。

 そんな国々が、自分の国が持つ鉱山とアルパ商事地球支社が立ちあげようとしている事業に関わりがあると知ったら、あの手この手で利権を得ようと足を引っ張るだろう。そうなると亜鉛は現在のレアメタル・レアアースの様に政治の道具にされ、円滑な経済活動が出来なくなる。それでは困る訳だ。

 その点、面会では比較的おとなしく、影響力も三国に比べれば持っていない国が相手ならば、絶対に足を引っ張らない。むしろ影響力を上げようとして積極的に協力してくるだろう。

 JPZの主要鉱山はオーストラリアだ。あそことなら、いい関係が築けると思う。


 そういう訳で、僕達はルイの名義でアポイントメントの申請をメールで送った。もちろん、絶対に盗み見ることは不可能なプログラムを仕込んである。


 数時間後には、了承の返事と、2週間後にJPZ本社で会談をしましょうという内容が書かれたメールが送られてきた。

 このメールを読んだ直後、僕達は会談の準備を整え始めた。



 会談当日。

 僕とルイは、電車で東京まで行き、JPZの本社ビルにやって来ていた。もちろん、移動の際は後を付けられない様に『変装指輪』を使った。これは、起動させると指輪を装着した人の容姿を変えることが出来るのだ。

それを使って無事に誰にも感づかれずに東京まで出て来れたわけだ。


 JPZビルに入り、変装を解くと、僕とルイは受付に行き、ここに来た趣旨を説明した。


「わかりました。今担当の者と連絡をいたします」


 受付係の女性は、内線をつなぎ、確認する。それが終わると、僕達に声をかけた。


「確認が取れましたので、これから会場までご案内します」


 それから受付の人に付いて行くのだが、エレベーターに乗った後、いつまでも止まる気配がしなかった。そしてようやく到着したのは……最上階だった。


 最上階に到着してから、さらに奥を歩く。最終的にやって来たのは、なんと社長室だった。


 そこに到着すると、中からドアが開いた。どうやら廊下の様子を見れるシステムがあるようで、こちらの様子をよく見ていたらしい。


「ようこそいらっしゃいました。私がJPZ社長の、白金亜斗夢(しろかねあとむ)です」

「営業部長の、安中(やすなか)金久(かねひさ)です」


 40代くらいの若社長が白金亜斗夢氏で、同じ年代のもう一人の男性が営業部長の安中金久氏の様だ。後で聞いたが、安中部長の方が白金社長より5歳年上の45歳らしい。


「初めまして。アルパ商事地球支社社長を務めております、ルイ・キエンです」

「副社長の笹見文人です」


 お互いの挨拶が終わると、社会人儀礼、名刺交換をする。ある種滑稽に取られるかもしれないが、名刺交換すると自分の人脈が広がった様な実感がわく。


 その後、来客用のソファに座るよう促され、僕達が座ると同時に、秘書っぽい人からお茶を出される。


「まさか、今話題の地球外企業からお声をかけていただき、社長としてとても光栄に思います」

「いえ、こちらも急なお願いをお聞きいただきまして、ありがとうございます。それでは早速ですが、私共が一週間ほど前に送信した資料には、目を通していただけたでしょうか?」


 実は、いきなり話を持って行くのは失礼にあたるので、企画書等の資料を事前に送っていたのだ。

 ルイが確認を取ると、二人とも印刷された資料を出した。どうやらきちんと読んでもらえたようだ。


「まさか、地球で良く採れる亜鉛が、アルパ星ではレアメタル扱いとは……」

「こうなって来ると、宇宙の各惑星の資源事情を知りたくなってきますね」


 白金社長と安中部長は、金属業界の人間として、アルパ星の資源事情に興味が湧いたようだ。


「興味を持っていただき幸いです。でしたら、資料に我々で練り上げたビジネスプランがあったと思うのですが、それに協力していただけませんでしょうか?」


 ここぞとばかりに、ルイが本題に切り込んだ。

 この計画は、アルパ商事地球支社のみならず、JPZにとっても多大な利益が見込める計画だ。十中八九、承諾する物と思われた。

 だが、白金社長の返答は、僕の予想に反した。


「……非常に魅力的なお話しではありますが、我が社だけではお引き受けできません」

「理由を聞いても?」

「我々には、亜鉛の販路しか持っていないからです」


 話を聞くと、JPZには亜鉛以外の流通網を持っていない。つまり、いくら希少な金属を大量に保有していても、売却先が無いため、金にならないし商品を死蔵する事になってしまうのだ。


 こちらのリサーチ不足と言われればそれまでだが、このままでは企画が行き詰ってしまい、ポシャッてしまう。

 なんとか別のアイディアを思いつかなければと思ったその時、安中部長がある提言をしてきた。


「我が社は、レアメタルを扱っている会社と取引があります。そちらとも協力していただけるのでしたら、この貿易計画は実行可能です」


 実は、亜鉛の鉱石である閃亜鉛鉱には、ガリウム、ゲルマニウム、銀、ニッケルなどのレアメタルやレアアースが少量含まれている場合があり、JPZではそれらを集めた後、専門的に取り扱う業者に流しているのだ。


 そして安中専務は、その業者の資料を見せた。

 業者の名は、『勝浦磁石』。千葉にある磁石関連の技術を持つ中小企業だ。

 なぜ磁石屋がレアメタルを取り扱うのかというと、磁石の中にはレアメタルやレアアースを使う技術もあるからだ。ネオジム磁石に使われる『ネオジム』なんかが代表例である。


 勝浦磁石を巻き込ませる案に、僕とルイは賛同。僕らとしては貿易事業をなんとか成功させたいため、この程度の路線変更は許容範囲だと考えたのだ。

 そんなわけで、勝浦磁石に安中部長の紹介で連絡を取り、数週間後にJPZと交えた協議を行う事になった。



 勝浦磁石との面会日がやって来た。

 僕とルイは、千葉県にある勝浦磁石本社で、会議に挑もうとしていたところだった。


「お待たせしました。社長の勝浦勇磁(かつうらゆうじ)です」

「息子で営業部長を務めている、勝浦営(かつうらえい)(すけ)です」


 勝浦社長は50代の職人らしさが垣間見えるおじさんで、息子の勝浦部長は30代位の、少々美形な人物だった。

 そして社長、部長と要職を創業者一族が勤めている所から、この勝浦磁石は一族経営の企業であるらしい。


 最初に発言したのは、勝浦社長だった。


「この勝浦磁石の創業者は、元々職人気質な人だったようです。そしてその気質は代々受け継がれているようで、かくいう自分や息子も、その気質が垣間見える事があります」


 社長の方はともかく、息子さんの方は容姿に似合わず職人らしさがあるらしい。見た目からは想像がつかないな。


「ですので、失礼ながら単刀直入に話をさせていただきます。我々は磁石を作るのが本業で、レアメタルの取り扱いは副業に過ぎない。しかも中小企業のカテゴリーに入る規模ですから、すぐには大々的に商売ができません。そのことを念頭に入れていただけますか?」

「わかりました。むしろそちらの方が地球経済のために良いでしょう」


 ルイの発言は、きちんと立てた予測に基づいたものだ。

 今世界中で注目されているアルパ星で、亜鉛が貴重であると知られたらどうなるか。おそらく亜鉛でひと儲けしようとする人や企業が大量に現れ、地球での亜鉛の値が高騰する。そして待っているのは、市場混乱。最悪、歴史的な経済的ダメージを受ける恐れがあるからだ。

 だから僕らは、わざわざアルパ星の最新セキュリティを導入し、変装してまで出張し、取引相手には情報流出の防止をお願いしている。


 今回の商談だって、成立するにしても表には出ない秘密契約にするつもりだった。

 もちろん、時期を見て公表するつもりだが。


「そう言っていただけると助かります。では、勝浦磁石としては正式に、この企画に参加させていただきます」

「感謝します。では、近いうちにJPZさんと合同で会議を行い、契約を結びましょう」


 その後、何度か三者合同で話し合いをして、世間にはしばらく出ない秘密契約を結んだ。


 しかし、それだけで終わりではない。次に、アルパ星側との交渉がある。これをクリアしなければ、この企画は成立しない。


 だから僕は、契約書に調印した後を見計らい、告知した。


「では皆さん、次はアルパ星の方の企業、アルパ商事傘下である『アルパ鉱業』との商談が待っています。つきましては、各社の代表者二名を選出していただき、アルパ星へ出張していただきます」


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