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こちらアルパ貿易商社  作者: 四葦二鳥
第1章 バイオ研究試薬編
6/25

儀式終了

 9月。見本市から一カ月近く経った。

 すでに利益をコンスタントに出せるようになって来ている。それも事業開始から半年未満でだ。

 この結果は、多少なりとも運も良かったのだと思っている。普通、事業の成功には準備を含め1年以上はかかるものなのだから。


 しかし、幸運とは常に付いて回るものではない。今は順調に売り上げを伸ばしているが、いつ突然売れなくなるかわからない。

 そのためにも、新たな事業を立ち上げる必要がある。


 そのために僕は、日々の仕事をこなしながら、新事業のアイディアを考えているのだが、なかなか出て来ないのが現状だ。

 ただ、記録を見ると現国王が叩きだした記録は550万ベネ。現在のルイの記録は330万ベネ。とりあえず、年内には国王の記録を抜きそうなのだ。極端な話、今のままの仕事を続けていれば、記録を抜くだけなら今のままでも十分だろう。

 だが儀式の後の事を考えると、もう何本か商売のタネが欲しいのが現状だ。


 今日は、アルパ星に到着し、ブレイン・ラジコンを仕入れに来た。ただ量が多いので2~3日搬入に時間がかかってしまう。そのため、空いた時間にいい商売のネタを仕入れようと考えている。

 キエンポリスに限って言えば、ある程度慣れてきたからね。


 でも、そういう予定を限った時に新たな問題がやって来るわけで。


「失礼します。王室庁儀礼部の者ですが」


 以前、貴金属類の流出に対しお叱りの手紙を届けた人だ。また、何か問題でもあったのだろうか?


「国王陛下がお呼びです。ご同行願えますか?」

「お父様が? 悪いけど文人、タクシー捕まえて先にホテルに……」

「いえ、笹見様にもご同行願います」


 この時の僕は、おそらく間抜けな顔をしていただろう。

 結果、自体を把握できない内にいつの間にかリムジンに乗っていて、気が付けば王宮の謁見の間にいた。


 謁見の間は、思っていたのよりもスマートだった。玉座は仰々しい階段の頂点にあるタイプではなく、一段高い所に国王と妃殿下の玉座があるだけ。

 そばにいる人も、王室庁の長官らしき人と、儀礼部の部長、それに何人かの侍女と秘書官だけであった。


 そして玉座に座っている、一見優しいお父さんっぽいが、どこかただ者ではない空気を漂わせている人物が、現アルパ星国王、バフェット5世その人なのだろう。


「国王陛下、ルイ姫殿下と殿下の協力者、笹見文人氏をお連れしました」


 僕達を連れてきた儀礼部の人の後に続き、ルイと僕は謁見の間を進む。

 一定距離を進むとルイが跪く。それに合わせ、僕も同じく跪く。


「ご苦労。二人とも、楽にせい」


 国王は玉座の肘掛をいじると、なんと僕達の後ろから、ちょっとだけ豪華なイスがせり上がって来たのだ。

 この空間、結構伝統色が強いと思ったら、意外と中身はハイテクの塊だったのだ。


 とりあえず国王陛下の言葉に甘え、ルイと僕はイスに座った。


「まずは……ようこそ文人君。アルパ星は君を歓迎するよ」


 この王様、最初の雰囲気とは打って変わり、完全に気のよさそうなおっさんっぽい口調で、しかもなれなれしく下の名で呼んだのだ!

 この落差に付いて行けなくなり、頭がフリーズしてしまった。


「お父様は、仕事モードとプライベートモードで180度雰囲気が変わるのよ」


 ルイに小声で国王の真相を告げられ、何とか脳内処理が追い付いた。

 しかし、180度変わると言っても、初対面の人間に下の名前呼びはどうなのだろう? 同姓の名前の人がいるとは考えにくいのだが。


 あと些細なことだが、ルイの顔が赤く見えるのは気のせいか?


「あ……ありがとうございます」

「うん。ルイの儀式を手伝ってもらって、その上実績を作ってしまったんだから、すごいよねぇ。

 で、今回呼び出したのは、その儀式の事なんだけど……」


 突然、国王の雰囲気が変わった。いわゆる『仕事モード』になったようだ。

 室内が、氷の様な冷たさで満ちていく。


「儀礼部との協議の結果、ルイ・キエンの成人の儀の早期終了を言い渡す」


 その瞬間、ルイの顔色がさぁっと青ざめていくのが目に見えてわかった。

 しかし、なぜこのタイミングで? まさか、自分の記録が抜かれるのが嫌だからか?


「納得がいきません! あともう少しで、歴史に名を残すような記録に到達出来るのに……」

「もうすでに、歴史に名が残る程度には稼げているよ。言っとくけど、自分の記録が抜かれそうになるのが嫌だからって訳ではないからな」


 その後の国王陛下の説明によれば、これ以上他星との交流が無い、それどころかその存在も知られていない星に個人で関わり続けるのは危険だと判断したらしい。

 また、地球がビジネス相手として有望株であることが儀式を通じて判明したため、会社としては組織ぐるみで交流したいとの思惑もあるようだ。


 成人の儀に関しては、記録上上位に位置する利益を出したことに加え、歴代1位の早期終了記録を叩きだしたため、ルイは将来、確実にバフェットを襲名出来る事が言い渡された。


「……わかりました。そういう事でしたら、私自身受け入れます」

「意外だな。もう少し食いつくと思っていたけど……」

「我を押し通せるほど、社会は甘くないわ。社会と自分のアイデンティティーとの折り合いをつける教育は、昔からされてたから。なんせ、『ビジネスマン王族』の娘だから」


 そう、笑いながら僕に話した。ただ、目には涙を浮かべていたが。相当悔しいんだと思う。


 そして、国王から今後の方針が言い渡される。


「ルイ達が作った企業『アルパ貿易商社』だが、その会社を『アルパ商事地球支社』とし、ルイを代表取締役社長に、文人君を取締役副社長に任命する。そして成人の儀で立ち上がったプロジェクトを、地球支社の委託とする」


 宣言が終わると、侍従の人から辞令と雇用契約書、保険加入所が手渡された。

 さらにいつの間にか、自分の目の前に机とペンが用意されている。どうやら、この場で書け、ということらしい。別に断る理由はないが。

 だが、一つだけ心配な事がある。


「あの……印鑑を持ってきてないんですけど……」

「ああ、文人君の故郷は印鑑式の契約が主流なのか。心配いらない。アルパ星はサイン式だから」


 という訳で、署名欄にサインをした。自分でしか書けない様なサインを書けとの事だったので、漢字を大分崩した字にした。


「では、アルパ商事代表取締役社長として、最初の業務命令を通達する」


 どうやら、国王のアルパ商事での肩書は、代表取締役であるようだ。

 ちなみに、まだ存命している先王は会長らしい。


「アルパ星の存在、そしてアルパ商事の事を地球に広く知らせよ! 本社としても、協力は惜しまない」


 アルパ星とアルパ商事を広く知らせる……つまり、経済活動をしていく上で最低限の地盤固めをして欲しいらしい。


「地球に『広く』知らせる、か……。下手にやったら、色々面倒がありそうだなぁ……」


 ルイの心配事はもっともだ。他星との交流が無いことに加え、地球は一つの星に複数の国家があるタイプの星だ。利権争いやらなんやら、やり方を間違えれば『広く』認知させることが難しくなる。

 しかし、僕にはある程度策があった。


「大丈夫だ。中途半端な規模で周知しようとするから、上手くいかなくなる。だからド派手にやるぞ。そのためには、本社に協力していただく必要があるが……」


 という訳で、早速代表取締役社長様に協力をお願いした。



 1ヵ月後。10月。


 この日、東京都内のホテルの大広間一室を借り切り、『重大発表がある』とマスコミ各社に声明を送り付け、記者会見を開いた。

 おもちゃ博覧会で注目され、その後社会現象を巻き起こした会社が何を発表するのかと興味が湧いたマスコミ各社は、欠席者無しでこぞって会見会場に駆け付けた。


「え~、お集まりの皆様、お忙しい中お越し下さり、誠にありがとうございます。ただいまより、アルパ貿易商事の記者会見を始めさせていただきます」


 ルイの開会宣言により、記者会見が始まる。


「まずは、こちらをご覧ください」


 暗くなる会場。そしてルイの後ろにあるプロジェクターが起動し、映像が映し出される。

 映し出されたのは、日本を含めた世界各国の主要都市の映像だ。そこには、宇宙船の大船団が、所狭しと浮かんでいた。

 この宇宙船の大船団は、国王に依頼して派遣したものだ。強いインパクトと、徹底的な周知を目的としている。


 それと同時に、携帯の着信音や話声が会場に満ち溢れる。どうやら、本社経由で外の状況が知らされているのだろう。


 そのタ意味イン具を見計らい、ルイが解説を始める。


「すでに確認が取れた方が多いと思いますが、これはCG等ではありません。実際に起こっている事です。今から我々の正体、そして目的をお話しさせていただきます」


 その瞬間、会場が静まり返る。知らされた正体不明の飛行物体の群れと、この会見に関わりがあると今判明したのだ。

 一字一句、聞き逃す訳にはいかないのだろう。


「説明を始める前に申し上げておきます。あの船の回線を通じ、この会見は世界同時中継、翻訳付きでお送りしています。

 では、説明をさせていただきます。我々は――」


 ルイの説明が始まる。

 アルパ星の事、アルパ商事に事、今まで地球でやって来た経済活動、そしてこれからの活動予定をかいつまんで説明した。


「――以上で説明を終わります。なお、明日より『アルパ貿易商事』は『アルパ商事地球支部』と名を変え、本格的な経済活動に入る予定です。

 何か質問のある方はいらっしゃいますか?」


 だが、誰も手を上げない。

 人類が経験したことのない事態であったことに加え、事前情報が何もなかったのだ。どこから質問していいのかわからないのかもしれない。


 そんな中、一人の若い記者が質問した。


「どうして、大船団を派遣し、世界同時中継すると言う派手な記者会見を行ったのでしょうか?」

「変に情報統制されたくなかったからです。情報統制は、経済活動の妨げになりますから。

 ですので徹底して周知するため、情報統制の余地がないくらいにインパクトを残さなければならなかった。その結果が、今回の記者会見です」


 それで納得したのか、記者は礼を述べて座った。


 それ以降、質問が無かったので、記者会見は無事終わりを迎え、船団もアルパ星へ帰って行った。


 この記者会見が残した衝撃波凄まじく、全世界がこの話題で盛り上がった。どのマスコミやインターネットニュースも、他星との交流の可能性やリスクを論じる記事が大半を占めた。


 後に、この記者会見を行った年は『宇宙開国元年』と呼ばれ、地球の歴史に大きく名を刻むのだった。


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