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こちらアルパ貿易商社  作者: 四葦二鳥
第1章 バイオ研究試薬編
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おもちゃ見本市

 急遽地球へ輸出する物品を選定しなければならなくなった僕とルイ。

 だがここでも、隔絶した科学技術というのがネックになった。


 あまりにも飛躍しすぎた技術は怪しまれ、受け入れられない可能性がある。そうなったら、かなりの赤字だ。

 いや、それだけならマシかもしれない。変に技術について理解され、出所を探られると、様々なトラブルが待ち構えてしまうのは容易に想像できる。


「野菜とか肉は?」


 ルイの提案には、一部同意出来る部分がある。

 アルパ星の農業や畜産業は、地球で言うところの野菜工場をさらに発展させた様なものだ。屋内で環境を完璧に管理し、野菜は土を使わず水耕栽培。家畜はストレスを管理している。

 そのおかげで、様々な環境条件を設定された作物や食肉がスーパーに並び、あらゆる食感やおいしさを持つ食料を楽しむことができる。もちろん、それらの環境条件や詳しい栽培方法・育成方法は企業秘密になっている所が多い。

 土や気候、自然環境に配慮する地球の農畜産業とは真逆のベクトルで、一つのおいしさの極地に到達しているのだ。


 そのような食品は、確かに売れるだろう。

 だが、面倒事があるのも確かだ。


「法律の壁がなぁ……」


 食品を輸入する際、必ず検疫を受ける。変な病気を日本に持ち込ませないためだ。

 だが他の惑星から持ち込んだ食品なんて、法律上どう取り扱っていいかわからないし、原産地明記の問題もある。

 『原産地:アルパ星』なんて怪しい事この上ないし、一発で摘発対象になってしまう。


「せめて、アルパ星の事を多くの人に知ってもらえればいいんだけど……」

「他惑星と国交を開くのって、結構大変よ。それに地球は同じ星に複数の国があるタイプの星だから、さらに面倒になるわね。絶対に3年で解決できる問題じゃないわよ」


 ちなみに、医薬品も同じ法律上の理由で却下だ。全宇宙の生命体は根本的に同じであるため、おそらく医薬品の効き目も同じ可能性が高いが、医薬品を市場に流通させるには厚生労働省の認可が必要だからだ。

 その認可も、べらぼうに時間がかかる。


「なんか思い付かないもんか……」


 そう言いながら、WD(ウォッチデバイス)をいじり、色々な商品を眺める。

 その中で、ある事に気が付いた。


「アルパ星って、脳波を使う商品が多いんだな」

「そうよ。アルパ星の得意分野の一つに、脳科学があるの。脳波を使う製品に規制や企画が生まれたのも、アルパ星が初めて」


 アルパ星で脳波系製品がよく売られている理由はわかった。でも現状の問題解決には……あれ? そういえば、脳波操作っていうと、なんか以前ネットで読んだ記憶が……。


「これだ!」

「うわっ!? いきなりどうしたのよ!」


 突然僕が叫んだためにビビったルイを尻目に、僕はWD(ウォッチデバイス)である商品を探し出す。


 そして、見つけた。


「ルイ、この商品なら、売れるぞ!」



「で、このおもちゃをどうやって売るわけ?」


 地球に帰って来た僕達は、仕入れてきた商品の売り方について会議をしていた。


 仕入れた商品は、アルパ商事傘下でおもちゃメーカーの『アルパ・トイ』が製造した、『ブレイン・ラジコン』。カチューシャ型の脳波コントローラーを装着し、念じるだけでラジコンを動かせるおもちゃだ。

 シリーズ物で、いくつか種類があるが、今回は地球でも受け入れられるよう、4輪のスポーツカータイプを選択した。

 ちなみに、ホバーカーが主流となっているアルパ星だが、タイヤで走る車やバイクもある。これらは地面との摩擦によって起こる特徴的な動きや操縦テクニックに注目されているため、モータースポーツの一種として存在している。


 なぜ、僕がこのブレイン・ラジコンを選んだか? それは、地球でもある程度下地があるからだ。

 脳波で動くネコミミカチューシャはすでに発売されているし、大学なんかでも脳波操縦について研究されている。

このようにある程度の基礎があるため、受け入れられると思ったのだ。


 しかし、商品を決め、仕入れても、まだ問題は残っている。売り方がわからないのだ。

 普通、メーカーは契約している小売店に卸すのが普通だが、僕達はそんな小売店なんてないし、頼みに行ったところですぐ追い返されるのが関の山だろう。


 インターネットを使った直売という手もあるが、今はありとあらゆるネットショップが群雄割拠している状態。埋もれてしまう可能性がある。


 そこで、確実に売れ、なおかつインパクトを与える方法が好ましいのだが……実はすでに、方法を考えてある。


「これを見ろ」

「おもちゃ見本市……?」


 『おもちゃ見本市』。それは、広く世間へ様々な企業が開発した、おもちゃの新商品を発表する場。一般客やマスコミの取材もあり、例年大変にぎわうのだ。


 もちろん、見本市は単なるPRの場ではない。ビジネスの場でもある。

 他の企業と知り合い、業務提携の可能性を探ったり、コラボレーションのきっかけを作ったりする場でもあるのだ。


 期間は来月、7月下旬の4日間。前半二日間はビジネスデイ、後半二日間は一般開放日として当てられている。

 会場は、幕張にある見本市のために造られた建物だ。


「事後報告で悪いが、すでに『アルパ貿易商社』という名で事業者登録を済ませてある。ルイのGOサインが出れば、この企業名で見本市の応募が出来るように準備してある」

「わかったわ。現状、それしか方法が無い様だし……参加するわ」


 こうして、おもちゃ見本市への参加が決まった。



 7月下旬、おもちゃ見本市当日。


 僕達は無事、出店準備を終え、本番を迎えることが出来た。ブースは端の方の、小さいスペースであったが。


 1日目は、ビジネスデイでありながらどこも様子見で、本格的な商談はどこもない。あるとすれば、事前に根回しや何度も協議をしている所位だろう。


 僕達も店番を交代で行いながら、お客様気分で見本市を楽しむことが出来た。


 一通り回ってみて思ったが、おもちゃ業界はかなりハイテク化が進んでいるらしい。

 人生を体験するボードゲームはキャッシュカード製になり、デジタルでお金を管理できるようになっていたし、野球を楽しむ卓上ゲームもコンピューター制御で球に回転をかけ、様々な球種を投げられるようになっている。

 子供の頃に楽しんだ鉄道おもちゃも、時刻表を簡単にプログラムし、規則通りに走らせられるようになっていた。


 ルイの方はキャラクタービジネスに興味を持ったようだ。親が子供の時から続いている人形シリーズはザラにあるが、アルパ星ではそういうシリーズは少ないのだそう。

 もしかしたら、キャラクタービジネスは地球が持つ数少ない長所なのかもしれない。


 大変だったのは、二日目だった。初日にちらほら客が来ていたが、それとは比べ物にならないほど大勢の人が詰め掛けてきた。

 どうやらかなり噂になったようで、一気に注目度が上がったらしい。


 もちろん商談の依頼も殺到したが、僕とルイはその中から、『トミヤ』を第一候補として商談を行う事にした。

 トミヤはラジコン・模型のメーカーとして有名で、この会社ならブレイン・ラジコンの魅力を最大限に生かしてくれるだろうと踏んだからである。


「初めまして。トミヤ営業部長の富谷栄介です」


 富谷栄介は、トミヤ創業者一族出身の、50代男性だった。


「初めまして。アルパ貿易商社社長のルイ・キエンと申します」

「取締役兼営業部長の笹見文人です」


 二人は事業者登録をするのにあたり、こういう肩書で通す事にしていた。

 名刺交換が済むと、早速商談に入る。


「社長のキエンさんは、外国の方ですか?」

「ええ。ヨーロッパの小国出身でして。実家が小さい商社を経営しておりまして、自分も何かやってみたいと思って貿易商社を立ち上げたんです」


 もちろん、これも地球で活動するために作り上げたストーリーだ。真実味を持たせるため、ある程度事実に沿った話にしているが。


「ということは、このブレイン・ラジコンもご実家から……?」

「はい。大昔に合併したおもちゃ会社が最近開発したものです。あまりにも出来がいいものですから、世界最先端のおもちゃが開発されている日本で挑戦してみようと。小さい会社の売りは、フットワークの軽さですから」

「なるほど。では、いくつか質問、よろしいですか?」


 僕は商談の成功には、どれだけわかりやすく、スムーズに質問に答えられるかにかかっていると思っている。顧客の不安を解消しなければ、誰も使ってくれないからだ。


「車の方ですが、スポーツタイプしか用意されていませんね。デザインのバリエーションを増やす事は可能でしょうか?」

「内部構造は既存のものと共通です。お客様のご要望にお応えし、新たなバリエーションを設計する準備は出来ています。また、契約を締結できたあかつきには、車部分の内部設計図を御社に提供し、御社でも独自に設計できるよう配慮していく予定です」

「それはありがたいですね」


 一つ目の質問は、非常に感触がいい。トミヤ自身でデザイン出来るように配慮した事が功を奏したようだ。


「では、もう一つ。脳波コントロールを行うという事ですが、脳への負担は?」


 来ると思った。

 そう思って、アルパ星滞在中に、地球人がアルパ星の安全基準に適用できるかどうかを、僕自身が被検体になって検査してもらったのだ。

 その結果、適用可能と出た。全宇宙の生命体は起源が同じとはいえ、環境によって独自進化している可能性もあり、もしかしたら別に安全基準を設定しなければと思ったが、そんな心配はないようだった。


「当社の地道な研究調査により、一定の安全基準を設けました。ブレイン・ラジコンは、その基準を満たすよう作られています。老若男女、安心して遊ぶことができます」

「それはよかった。では、当社の委託販売品として契約を結びたいのですが、いかがでしょう?」

「ぜひ、喜んで!」


 その後の協議の結果、トミヤに販売委託費として売り上げの3割を支払う事で契約締結。

 とりあえず、ブレイン・ラジコンの販売算段を付けることに成功したのだった。


 しかし、見本市はこれで終わりではない。


 実は商談を行う直前、あるテレビ局から取材依頼を受けていた。なんでも、明日の夕方のニュースで取り上げたいとのこと。

 僕とルイは商品の宣伝になると思い、これを快諾。取材は明日の朝であった。


「こちらが、脳波で動かすラジコンですかー」

「はい。当社イチオシの商品です」


 取材には、ルイが応じてくれた。トミヤとの商談よりは突っ込まれた質問をされずに済み、テレビでも『未来を先取りするおもちゃ』として紹介された。


 もちろん、その反響はすぐにやって来た。


 翌日、見本市最終日。

 この日、昨日のニュースの反響があったようで……。


「押さないで下さい!」

「体験はおひとり様5分です!」


 ブレイン・ラジコンを体験したいと、小さいブースに大勢の客が集まったのだ。

 おかげで僕とルイの二人だけではどうにもならず、見本市運営本部に応援を要請し、整理にあたって貰ったのだ。

 幸い、けが人などは出なかったものの、常に3時間待ちの大行列ができ、僕達は休憩を取る暇さえなかった。


 こうして、販売委託契約を取り付けるという当初の目的と同時に、商品の宣伝まで行えた、充実した4日間の幕が降りた。



 数週間後。

 トミヤとの詳細な打ち合わせ、商品の納入、トミヤの小売店への発送が終わり、いよいよブレイン・ラジコンの発売日となった。


 結果から言うと、見本市での盛況ぶりが影響してか、発売後数時間で売り切れた。

 興味本位でインターネットオークションをのぞいてみると、すでにとんでもない値が付いていた。数十万が主流だが、人気車種では百万を超えていた。


『早いうちに、次の仕入れを頼みますよ』


 富谷部長から催促のメールが届いていた。


「ルイ、次の仕入れ分は?」

「今アルパ・トイに送ったわ。今から取りに行けば、必要分は手に入るわね」

「そうか。寒天も数が集まって来たし、今夜あたり出発するか」


 そしてまた、もう何度目になるかわからないアルパ星へ向け、地球を飛び出すのだ。


 ちなみに、見本市で大成功を収めたのをきっかけに、以後我が社の主要ビジネス形態として、見本市は確固たる地位を確立するのだった。


今日はここまで。


1章分は毎日、午後3時ごろ更新していく予定です。

といっても、あと2話ですが。

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