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こちらアルパ貿易商社  作者: 四葦二鳥
第1章 バイオ研究試薬編
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架空研究所開設

 元々僕が通っていた大学は、埼玉県川越市にあった。正確に言えば隣町の鶴ヶ島市の市境付近にあったが。もちろん、現在活動拠点となっているチュナーティ号が沈められている川も、川越市にある。


 そのため通うのに結構時間がかかったのだが、今日から自宅がある埼玉県久喜市の川に沈められた。自転車で通える距離になったので、かなり通勤が楽になったのだ。


「それで、秘策とやらを教えてもらいましょうか」


 会議室内で、期待を込めた目線を僕に送るルイ。

 その目線に答えるかのように、僕は自身満々に答えた。


「わかった。その前に現状の確認だ。とりあえず貿易品は寒天、しかも研究向けの試薬として売り出す。ここまではいいな?」


 アルパ星には、細菌を面上に培養する固形培地を作るのに四苦八苦している。寒天が無いからだ。

 僕達はそこに目を付けた。


「だが、地球で試薬の仲介業を始めた所で、簡単にはメーカーも卸してもらえない。一応インターネットで業者に直接注文できるし、大体有名どころは決まっている。

 僕らが仲介業を始めた所で『私共は仲介業者に頼まなくてもやっていけてますので』とか『我が社にメリットがある様には見えませんが』とか言われて断られるのがオチだ」

「じゃあ、どうすんのよ?」

「答えは簡単。寒天を大量に買っても怪しまれない環境を作ってしまえばいい」


 そして僕は一束の書類を取り出した。そこには『アルパ農業研究所』と表紙に書かれていた。

 ページをめくると、そこには農家の家と農地がセットになって売られている広告があった。


「この物件を買い、家を研究所にする。それで農業、特に農業と土壌細菌の関係性を研究する、という建前で運営するんだ」


 土壌細菌を調べる上で、固形培地は欠かせない。しかも大量に必要になるのだ。

 従って、寒天を大量に買った所で誰も怪しまない。


「民家を家にする? 大丈夫なの?」

「大丈夫だ。実際、家を買ってそこを研究所にした人の話を聞いた事がある」


 しかもその人、結構成果を出していて、数え切れないほど海外の論文誌に自分の論文を掲載しているのだ。

 この話を聞いた時、素直にすごい人だと思ってしまった。


「だが、研究所を設立するにしても、必要な物がある。そしてそれがこの計画の上で重大な問題になっている」


 研究所として体裁を整えるのに必要な物。それは数々の試薬類や機械類だ。

 寒天だけでは研究なんぞ出来ないし、機械類もある程度揃っていなければならない。クリーンベンチ、遠心分離、冷蔵・冷凍庫、培養槽等々。

 それらは基本的に高額で、全て揃えるだけでも成人の儀で支給される金額に容易く到達してしまうだろう。


 無理をして買った所で、寒天を買うのに必要な資金が無くなってしまえば本末転倒である。


「だから、怪しまれないように何とか見てくれだけでも体裁を整えたいが、資金が……」

「見てくれだけでいいのね? それなら任せて」


 するとルイは会議室を出て行ってしまった。

 数分後には戻って来たが、そこには手のひらサイズにした、プラネタリウムにある投影機っぽい物が握られていた。

 ルイはそれを起動させると、なんと机の上に宝石を山ほど出して見せたのだ。


「触ってみて」


 ルイの言葉に従って宝石を触る。驚くべきことに、きちんと触れるのだ。温度も、質感も、全てが自然に感じられる。


「幻覚の類だと思っていたんだけど……違うのか?」

「いや、幻覚よ。触覚まで再現してあるけどね」


 ルイの説明によると、この機会は『設置式タッチャブルAR装置』といって、地球のAR技術を大幅に発達させた様な物らしい。

 地球のARとは違って、脳波に干渉し、触覚まで再現してしまうのだそうだ。ちなみにこういう脳波を使う道具類は、アルパ星では法規制がされていて、安全に配慮する規格が存在しているらしい。

 そして『設置式』の名の通り、本来は壁や天井に設置して使う物なのだそうだ。


 脳波関連で思い出したが、今ルイの言葉を聞き取れているのも、以前アルパ星の観光映像を見た時も、日本語で理解出来たのはこの脳波関連技術のおかげらしい。

 常に僕の脳波にわずかながら干渉し、日本語に意訳してくれているのだ。


「家1軒分は楽にカバーできるわ。写真なんかの資料があれば、機器や試薬を再現する事も可能よ」

「よし、それで問題は解決だな」


 あとは不動産会社に連絡を入れ、即金で支払えば完了だ。

 金に関しては、支給金の3分の1を宇宙で大抵どこでも値打ちがある貴金属や宝石に変えてあるので、それを日本円にしてしまえばいい。


 それらの手続きは1週間の内に完了した。即金で支払う時には不動産の担当者から驚かれたが、まぁ予想の範囲内だ。

 そしてその日の内に前もってデータを打ち込んでおいた設置式タッチャブルAR装置を起動させておく。

 さらに唯一の本物であるパソコンに寒天の発注を数社にかけた。


 数週間後、大量の寒天が届いた。

 それらをチュナーティ号に積み込むと、夜中の内にひっそりと地球を発った。


 これが、地球とアルパ星の貿易業第1号目となったのだ。


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