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こちらアルパ貿易商社  作者: 四葦二鳥
第1章 バイオ研究試薬編
2/25

アイディア捻出

 翌日、早速僕は例の河川敷まで行った。もちろん、親には『運よく就職先が見つかった』と言っておいた。

 正確には協力関係であるが、別に報酬は貰えると約束してくれたし、別に間違ってはいないだろう。それにこの儀式で一定の成功を収めれば、そのままアルパ商事に入社できる。おそらく、公式記録上初の地球外就職者第一号となるだろう。


 ちなみに、両親共に僕の就職先についてあまり聞いて来なかった。多少ヤバい仕事でも、今の家庭の状況だと『やめろ』とは言いにくいからだろう。

 もちろん、僕は真っ当な仕事だと思っているし、危険な事はするつもりもないため、両親の心配は杞憂であると断言できる自信はある。


 河原に着くと、昨日の様に泡と共に水色の物体が現れ、僕にレーザーを照射し会議室に転移する。

 この水色の物体は、アルパ王室所有の成人の儀専用外宇宙航行船『チュナーティ号』の一部だそうで、昨日今日と転移した場所はその内部にある会議室らしい。

 スペックは、王族が使用する船らしく品のいい高級感があふれており、居住性抜群。さらに輸送船としても使用できるよう、船体の7割が積載スペースに充てられている。

 外観は剣の様なシルエットで、アルパ王家のシンボルカラーである水色に金色の模様が所々描かれている、荘厳さを十分に発揮しているデザインである。


「来たわね。それじゃ、始めるわよ」


 会議室にはすでにルイが待ち構えており、いつでもミーティングが始められるようになっていた。


「わかった。それで、ルイにはどんなプランがあるんだ?」

「貿易を考えているわ」

「なるほど。それで、どんな物を取り扱うか決まっているのか?」

「それが――」


 ルイの説明によると、アルパ星と地球の間に隔絶した科学技術の差があり、なかなかめぼしい物が見つからないと言う。

 言われてみれば、自分達の方が優れた科学技術を持っているのに、わざわざ旧式以下の技術で作られた物をわざわざ買いたいかと聞かれれば、大抵の場合答えは『NO』だろう。


 だが、この考え方には穴があった。


「工芸品はどうだ?」


 化学の粋を集めて大量生産に特化した工業品もいいが、人の手で経験だけを頼りに作られた、少数生産物である工芸品は、科学技術云々を抜きにして売れる物だと思うのだ。

 だが、ルイは首を横に振った。


「工芸品って、ある種の美術品でしょ? 美術品は人の価値観とか好みに影響されやすいから、ある意味博打に近い状態になると思う。だから、手を出さない方がいいわ。

 同じ理由で、コンテンツ系もやめた方がいいでしょうね」


 確かに、その考えは一理ある。

 世の中には、死んでから名を馳せた芸術家がたくさんいるのだ。そんな人達が存在してしまうのは、偏に人間の価値観が移ろいやすく、あいまいな物だからだろう。

 そんな物を頼りにしてしまうような商売は、どうしてもギャンブル要素が高くなってしまう。

 きちんと準備をして、定着させられるような土壌を作ればいい商売になると思うが、とてもではないが3年の短い期間で莫大な利益を出そうと考えると、圧倒的に時間が足りないのだ。


 その後、色々とアイディアを出してみたが、これと言っていいアイディアが出ないまま、時間だけがただ過ぎて言った。


 だが、転機は突然訪れた。


 僕が資料として持ってきたバイオの実験所を、ルイが何気なく見ていたのだ。

 その中で、彼女が気になる点を見つけたのだ。


「ねぇ、この固形培地を作る時に使う『寒天』って、なに?」

「ああ、それは海藻から採れる繊維質でさ、日本では昔から料理に使っていたけど、固形培地を作る際に都合がいいから、よく使われているんだよ」


 寒天に似た性質を持つ者に、ゼラチンがある。これはタンパク質で出来た凝固剤だ。

 だが、タンパク質であるがゆえに、大抵の生物はゼラチンを消化してしまう。さらに融点が低い。

従って、ゼラチンを固形培地に使用してしまうと、高確率で液状化してしまい、培地を固めた意味が無くなってしまう。

ところが寒天は、消化されにくい。寒天の消化酵素を持つ生物が少ないからだ。融点が高めなのもいい。

そういう利点があるため、固形培地と言えば寒天を使うのが、現在では常識となっている。


「アルパ星では違うのか?」

「そうよ。液体を固める物と言えばゼラチンしかなかったみたいだし。

 今は化学反応で人工的にゲルを作りだして培地を固めるみたいだけど、そうするとpHが変わることがあるし、それに副産物のせいで変な毒性を示したりとかして、バイオ研究者は苦労しているみたいね」


 さらに、適当な凝固剤が無いせいで、バイオ、特に細菌系の研究が他の分野に比べて進み方が悪いらしい。

 もちろん、アルパ星内の研究の話であるため、地球と比べると明らかに進んでいると言わざるを得ないが。


 これで、決まったな。


「よし、輸出品目は寒天だ。とりあえずこれを売り出そう」

「それはいいけど……大量に買い付けられるの?」

「大丈夫だ。僕に秘策がある。ただ、少しお願いが……」

「何?」

「この船、僕の地元に移せないかなぁ……」


 正直な話、就職したとはいえしばらく無給状態が続く。そんな状態で、電車に日常的に乗るのは避けたいのだ。

 それに、忙しくなった時に家から近ければ何かと便利、という事情もある。


「わかったわ。でも、この件、早めにお願いね」


 その後、ステルス機能を発動したチュナーティ号は空を飛び、僕の地元の川に沈められた。


連続投稿。5話分一気にやります。

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