第一章~であい~ (3)
廃坑の中に入り、分かれ道を右に左にと進むミュウ。
(たしか、空気が淀んでる場所には近づくなって先輩たちが言ってたっけ)
ミュウは同じ店で働く先輩たちの、廃坑に行くときの注意を思いだしながら注意しながらしばらく歩き続けると詰め所を見つけた。
そこには机と椅子が一組、そしてベッドが5つほどに、部屋の奥に棚が一つとそれなりの広さがある。
長く誰も使っていないようでそこかしこ埃まみれではあったが、ようやくゆっくり休められる場所にたどり着けた。
「ふぅ・・・・・・」
机の上にランタンを置き、ベッド近くに荷物を降ろして汗を拭い、ようやく一息ついた。
しばらくゆっくり休憩したあと、ちょっとした好奇心からミュウは部屋内を見て回ると、棚に本が何冊かあった。
今はやることもないので、暇潰しにと適当に何冊か明かりを置いた机のところに持っていき、一冊ずつパラパラと開き見る。
「日誌、かな?」
ミュウが本に書かれている内容を見てそう呟く。
それはここで働いていたであろう者が日々の記録をつけていたものだった。
かなり昔のものなのか長らく放置されていたからかインクが滲んでいたり掠れており、所々虫食い状態になっているため非常に読みづらい。
だが、なんとか読めないことはなく少しずつ読み進めていく。
『今回からここの発掘が開始される。お上の話じゃここは良質の鉄が採れるってことらしい。働き次第じゃ稼げそうだし、頑張りますかね』
「元々は魔石発掘じゃなくて軍事用の鉄をとるための場所だったんだ」
書いてある通りだと、ここは元々帝国が管理しており、軍の武具やゴーレムの骨組みを造るための鉄鉱床だったらしい。
昔は帝国と隣国とで戦争が起こっており、前述の理由で鉄などは大量に使われる。
魔石も採れるには採れるらしかったが質はあまりよくなかったらしく、そっちの方の採掘はすぐに打ち切られたとも書かれていた。
鉄鉱床も、この地が帝国から解放され今の自由都市となってからはほぼ手付かず状態になったようだ。
「・・・・・・なんでだろ?」
ふと疑問に思う。
貴重な資源だったはずの鉄鉱床のはずなのに急にその発掘作業が中止になるなんて。
日誌にもそれについては書かれておらず、ただ『上の判断』という一言だけ。それについて日誌を書いたであろう作業員が愚痴が書きなぐっている。
『今日でここともお別れだ。お上の判断だかなんだか知らないが、まだまだ資源が眠っているここを封鎖するなんて馬鹿げている。まぁ、雇われの俺が言ったところで意味はないが。しかし、ここでは時折変なことが起こっていたな。詰め所では夜中皆が寝ているとき、たまに誰かが走り回っている音が聞こえたり、照明用の魔具が突然消えたり、仕事中に妙に誰かの視線を感じたのがあったりもした。それが不気味だって言ってる奴もいたが、結局あれはなんだったんだろうな?』
ミュウはページを捲る手がピタリと止まる。
背中からじっとりと汗がにじみ出て顔を青ざめさせる。
「それって、ゆゆゆ幽霊ってこと!? ぼ、僕、来ちゃいけないところに来ちゃった?」
ぷるぷると小動物のように震えだし、辺りを見回す。
先程まではなんともなかったこの詰め所が、急に薄気味悪いものに見え始めてきた。
ミュウは幽霊や怪談の類いは苦手なのだ。
「ど、どうしよう。でも、ここ以外だと他にゆっくり休められそうにないし・・・・・・」
今日の安らぎと一時の怖さを天秤にかけ悩みだすミュウ。本来なら選択肢はここに留まる一択でしかないのだが、お化けが出るかもという恐怖がその思考を邪魔させているようだ。
『アナタハダレ?』
「ひゃうっ!?」
あれこれ考えていると不意に誰かの無機質な声らしき音が直接頭に響いてきて、ミュウは驚きで変な声を出してしまった。
「だ、だれ?」
声をあげて辺りを見回したが誰もいない。
「や、やっぱり幽霊が・・・・・・」
涙が浮かび声も震え出したその時。
ーーーーーードォーンッ!!!
「うわっ!?」
周りを揺るがすほどの轟音が聞こえ、天井の土がパラパラと落ちてきた。
「えっ、な、なに・・・・・・?」
困惑するミュウを余所に轟音は何度も何度も響き渡る。
その度に詰め所はぐらぐら揺れ、とうとう彼は立っていられなくなりその場にしゃがみこんでしまった。
「・・・・・・この音って、もしかして」
この音と振動に、ミュウが働いている工房で見たことがあるのを思いだし、ミュウは驚き恐怖の表情を浮かべた。
「爆弾?」
ここが、何者かの手によって爆撃されている?
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次回は来週土曜に投下します。
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