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庭の噺

作者: すみっ娘

ちょきちょきちょき。


規則的な小気味いい音が吉野の意識を浮上させる。

吉野は一人部屋で本を読んでいた。


ちょきちょきちょき。


その音はまだ聞こえる。

外からのようだ。

吉野は部屋の小窓から顔を出す。

目に映るのは屋敷の中庭。

そこに一人の男がいた。

(…陣)

花尾家専属の庭師だ。

夏の前に庭木の剪定をしているらしい。


ちょきちょきちょき。


(随分と切るのね…。まあこれから伸びてくるからあれくらいが良いのかしら…)

いつの間にか本から陣へと目が移っている。

実はというか吉野は陣に淡い想いを抱いている。

目が追うのも必然である。

対する陣は憎くない感情どころか吉野が引くほどの想いを向けてくれる。

陣の想いに絆されて吉野も懸想し始めたようなものである。

(だからよく花をくれたのよね…。私の苦手な花だったけど)

吉野の苦手な花。それは、

(………なんだったかしら)

思い出せない。

陣が持っているあの花。

なぜか花のところだけもやが掛かっていて分からない。

(何度も何度も持ってきてくれた…)

月を背負った晩に、窓をたたいて。

(…え?)

陣はただの庭師だ。

吉野の部屋を訪ねてきたことなどない。

まして窓から。

なのにどうして。

こんなにもはっきりと覚えがあるのか。

分からない。


ふと気付くと鋏の音がやんでいる。

(もう終わって帰ってしまったのかしら)

そう思いまた窓から中庭を覗くと、


目が合った。


思わず目を逸らしてしまう。

丁度陣に関することを考えていたため

(なんだか恥ずかしいわ…)

それにしてもこの記憶はなんなのだろう…。

疑問に思いながら吉野は、もう一度中庭を覗けなかった。



------------------------


目が合った。


と思ったら逸らされた。

存外ショックである。

陣は花尾家専属の庭師である。

吉野は花尾家のお嬢様である。

身分の差があるのは当たり前だが、

(そんな嫌われてはないと思ったんだがナァ…)

なぜなら、

(送った椿を受け取ってクレタ…)

今、剪定しているのも椿の木である。

剪定で枝葉を落とすのとは別に、少しだけ、椿の首を落とす。

(お嬢様、には椿が似合うカラ)

真っ赤な椿。

(最初は怒られてあんま受け取ってもらえなかったケド、途中から貰ってくれたナァ)

綺麗な椿をいっぱい集めて。

お嬢様、に喜んでほしくて。

お嬢様、に受け取ってもらいたくて。

(お嬢様に…、)

………?。小さな違和感を覚える。

(お嬢様?)

吉野は花尾家の一人娘だ。

吉野をお嬢様と呼ぶことになんら不思議はない。

しかし、

(オカシイ…?)

何か、変な感じがする。

(違う。もっと違う名で呼ンダ…)

陣だけが呼ぶその名前。

「お嬢様」ではなく。

名の「吉野」でもなく。

(ナンなんだ…)


ぼやっと薄霧でもかかったように思い出せない。

頭がぐらぐらする。

体もぐらぐらする。

なんだか全身を揺さぶられているような、なんだか、





「オキロ!バカワンコ!!!」



ざっくう!

「いっデェェェエ!?!」

眉間が痛い。目の前が赤い。

「やっと起キタカ!」

「あ、やっと陣起きたー!ねぼすけー!」

「陣くんねぼすけー」

「アァ!?」

目が覚めると寝床の神社だった。

何故か茶々と一、了が寝ていた陣を囲っている。

「陣!茶々はハラヘッタ!!」

「お腹すいたよー!」

「肉食いたいにくー!」

「知らねえヨ!俺は食い物屋じゃネエ!」

何かと思ったら飯の催促。

「狩りに行こうよ!」

「ぶっ殺して肉を食おうよ!」

「ニク!ニク!」

いつの間にか茶々と双子は仲良くなったようである。

「俺は行かネエ…。テメエらで勝手に行ってこいヨ」

陣は再び床に寝転がる。

「ナンダ陣、随分と不機嫌ダナ。夢見でも悪カッタカ?」

「夢ェ…?アぁ、最悪だったナ」

「陣くん夢見るの?」

「どんな夢見たんだ陣?」

陣は寝転がったままぶすっとした声で

「名前を呼べない夢ダヨ」

(『花ちゃん』って呼べなカッタ…)

陣だけが呼ぶ特別な名前。


「フゥン?茶々たちは飯ノ調達行ってクルゾ?帰ってキテからハラヘッタと言ッテモ分けてヤランカラナ!」

「分けてあげないからねー!」

「あげないよ-!」

うるさい三人が出て行ったあと陣はもう一度寝ようとするが寝付けない。

「最悪ダゼ…」

三人の後を追うか誰かの肌を求めるかも決めぬまま陣は夜の闇へ飛び出した。

月の照らす時間はまだ長い…。



-----------------------------


「お嬢さま、吉野お嬢さま」

「んっ…」

優しく揺り動かされて吉野は目を覚ます。

「この様なところで寝てしまってはお風邪を召されます」

「どうぞ寝所でお休みください」

どうやら部屋で読み物をしてるうちに寝入ってしまったらしい。

最後に記憶のある太陽は少し傾いていたが、今はもう真っ暗である。

「ごめんなさい、大丈夫よ。今どのくらい?」

「もう宵の口でございます。夕餉はどうなさいますか?」

「そうね、軽くいただくわ」

結構な時間寝ていたようだ。少しお腹がすいている。

「お嬢さま、なにか良いことでもありましたか?」

「え?どうして?」

ひふみが笑いながら

「お顔が嬉しそうですよ」

「なんだかご機嫌です」

「楽しい夢でも見れたのですか?」

夢を見た…。ような気がする。

「そうね。なんだかとっても楽しい、幸せな夢を見た気がするわ」

よく覚えていないけど、幸せな花の夢を見た気がする。




幸せな夢とはなんだろう。

夢の時間を照らす月は何か知っているかもしれない。

【終】

笹葉さん(@zasasaba)さん家の笹葉 陣くん、茶々姫

蛇井ちごさん(@hebi1go)さん家の花尾 吉野ちゃん

もひこ(@orotou )さん家の一ちゃん&了くん

お借りしました!

花尾ひふみは我が家の子です!

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