起承
それは断片的な未来・・・
だが、はっきりとした映像だった。
兄、勇也と幼なじみの沙織と自分と敦が父親の実家に居た。
そして、周りには会いたくない父方の親族。
親族側の女性が何か喚いている。
あれは確か、父の妹だ。
隣に居るのは・・・男の子?
男の子は<こちら>をはっきりと見て
「お姉ちゃんは、どうするのかな?僕、楽しみだよ。」
そう・・・男の子の名前は・・・
「いやっ!」
「・・・」
「・じ・」
「木嶋!」
「はい!」
「お前は・・・私の授業中に寝るとは本当に良い度胸だな。先日、体調不良で学校をいきなり休んだんだ。まだ、本調子ではないのだろう。それなら、保健室に行って休んでなさい。私も後で行く。」
目の前には担任の藤堂さゆり(2X)が笑顔で立っていた。
「あれ?」
周りのクラスメイト達から漏れる、クスクス笑い。
沙夜は覚醒した。
どうやら、授業中に夢を見ていたようだ。
夢にしては非常に、リアリティある夢だった。
内容ははっきりと覚えている。
沙夜は、黙って担任の言葉に従い保健室に移動した。
----保健室
沙夜が保健室に移動して10分程で、終業のチャイムが鳴り担任のさゆりが入って来た。
バツの悪そうな表情で入って早々、沙夜に訪ねた。
「木嶋。何を視た?」
沙夜は、事情が飲み込めずにどうしたものかと考えていると、ふと沙夜の携帯が鳴った。
さゆりに言われ携帯に出ると、姉だった。
沙夜には、勇也以外に姉と兄が居る。
兄は、既に他の家に婿養子で入っているが、姉はまだ未婚である。
普段、姉は自由気ままに人生を謳歌していた。
そんな姉からの突然の連絡。
沙夜はいぶかしげながら、電話に出た。
「あら?沙夜?今ってさゆりちゃん居る?」
「お姉ちゃん?先生なら、目の前・・」
姉に報告してる最中に強引に携帯をさゆりにとられる沙夜。
「おい!美夜!聞いてないぞ!お前の妹まで、星読みだったなんて!」
「あ、さゆりちゃん?久しぶり。今度、遊びに行くから〜。え?星読み?違う違う。沙夜はそんなじゃないよ。」
「だから、ちゃんづけで呼ぶなと・・・くっ、お前達兄弟と話してるといつも本題から脱線させられてしまう。まぁいい。本題に戻すが、星読みじゃないだと?嘘をつけ!お前の頃とほとんど同じ様子だったが?それでも、違うと言うのか?」
「あ〜お父さん達が沙夜にどこまで言ってるかで全然その応えに対しての返答は変わるのだけど。」
「そんなこと知らん。さっさと、吐け。お前の妹だろ?」
「まぁ、いいや。私には関係ないし。さゆりちゃん。沙夜は、夢読みだよ。」
「夢読み?お前の星読みと何が違うんだ?」
「星読みは、対象に対しての断片的な情報しか見れないけど、夢読みは夢を介して、未来の映像を完全に再現するの。」
「おいおい。相変わらずお前の所の血筋はデタラメだな。なら、神道系学校に転校させた方がいいんじゃないか?似たような子いっぱいいんだろ?何より、こんな普通の学校のカリキュラムでまかなえるとは思えないぞ。」
「それに関しては、私も同意見だけど。でも、逆に一般の学校の方が安全じゃない?だって、神道系の学校って<そういう特殊な子>がいるって広告を生徒一人一人につけているような物だし。」
「ふむ。一理あるな。」
「さゆりちゃん。普通に考えると、私学なのだから今のその学校のセキュリティーと神道系の学校のセキュリティーは似たような物だと思うよ?何より、沙夜なんて技術も知識も皆無なのだから。」
「ぐ、確かにそうかもしれんが。」
「沙夜を転校させるなら、あんたんとこの学校の光乃と首藤の二人も転校する事になるわよ?そうなると、学校経営状態やばいんじゃないかな?」
美夜は悪戯ぽっくさゆりにささやいた。
「ん?どうして、お前の妹を転校させるだけでその二人が出るんだ?」
「あ、二人とも沙夜と一緒の学校に行くと思うから♪」
暫しの沈黙・・・最初に口を開いたのはさゆりだった。
「それは・・・お前・・・視たのか?」
「どうだろうね?」
「わかった。私が対処出来る範囲では引き続き対処しよう。」
「うん。有り難う。持つべき物は信頼出来る友ですなぁ」
「厄介ごとの中心が何を・・・そういえば」
「あ、ごめーんそろそろお昼休み終わるから仕事に戻るね。んじゃ、」
一方的に美夜は通話を切った。
沙夜の携帯をにぎりしめ、はんにゃのような表情で沙夜に返すさゆり。
「さゆ姉ちゃん?」
沙夜は不安そうにさゆりに問いかけた。
「沙夜。学校では、先生と呼びなさい。公私混同のけじめはつけるべきだ。」
「あ。はい。」
「沙夜、単刀直入に聞くがお前はどこまで知っている?」
沙夜は何の話かすぐに理解した。
先日の一見をさゆりに隠す事無く話す。
さゆりは、そのばで深呼吸をしておもむろに席を立ったかと思うと、紅茶を入れて1人飲んで一言
「美夜め・・・恨むよ」
沙夜に聞こえないようにこっそりと漏らしたつもりだった。
だが、沙夜には聞こえていたようだった。
「さゆり先生。おだやかじゃないですが、大丈夫ですか?」
冗談と信じたいところだが、それにしては気持ちがこもっている。
そんな沙夜の一言にさゆりは開き直り
「恨み言くらい好きに言わせてよ。美夜のせいで学生自体にどれだけ大変な思いをして胃を痛くしたか・・・」
スイッチが入ったように、さゆりが呪詛を呟きながら、お腹をさすっていた。恐らく、その頃の事を思い出しているのだろう。
触らぬ神になんとやらと思い、沙夜はさゆりを残し保健室を後にした。
保健室を出ると、すぐに予鈴のチャイムが鳴り沙夜は急ぎ、教室に戻った。
教室に戻ると、静が心配そうに話しかけて来た。
「大丈夫だったか?一体・・・」
静が沙夜に聞こうとしたタイミングで数学の教師が教室に入って来た。
沙夜は後で、話すと言い残し自分の席に戻った。
放課後----
沙夜は、姉「美夜から電話がありその内容で自分が夢読みと呼ばれていること」を正直に沙織と静に話した。
しかし、沙織はどこか腑に落ちない用に静に問いかけた。
「夢読みって何?初めて聞いたんだけど。」
「いや、俺も知らない。兄貴ならあるいは・・・」
「現状は完全に手詰まり・・・ね。」
そう沙夜が言うと、ふと沙織がしたり顔で二人に提案した。
「あ、沙夜のお父さんなら知ってるんじゃない?」
「え?でも、答えてくれるかな?」
沙夜が心配そうに言うと
「駄目元で聞くだけ聞くのは有りだな。」
静が沙織を後押しし、沙夜もそれにしぶしぶ同意する。
----木嶋家
沙夜は自宅に帰ると母親に父が何時くらいに帰るか聞いた。
「え?多分、後1時間くらいじゃないかしら?何?お父さんに何か用なの?」
母の発言にどうしようか考えていると静が
「親父さんの書斎にある本を借りたくて」
ともっともらしい嘘をついた。
母はそれを聞いて納得しすぐさま、奥に引っ込んだ。
「静。流石〜♪」
沙織が調子よく静を誉める。
「うん、やっぱり静は頼りになるね。」
沙夜も素直に同意した。
それを聞いて、どこか照れたような笑みを静は浮かべていた。
「ほらっ!ここでまってるのも何だし、沙夜の部屋で待ってようぜ。」
沙夜の部屋でゲームをしていると、父が帰って来た。
父は、沙夜と沙織と静を見るとイソイソと書斎に逃げ帰ろうとするが静に先回りされた。
「おっと。おじさん。そろそろ、俺等にもイロイロと教えて欲しいんですがね。」
沙夜の父はバツの悪そうに、沙織一瞥した。
「わかった。客間で待ってなさい。」
沙夜は意外だった。
沙夜以外の二人もそうだろう。
まさか、すんなり了承を得られるとは思っていなかったのだろう。
だが、父は確かに了承した旨を三人に伝えた。
父の方にも思う所があったのかもしれない。
そして、三人が待つ事10分程で父が居間にやって来た。