表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DeuxEngage~If story~  作者: 黒猫軍曹
8/9

帰結

「美味しいところだけ持っていかれた!酷いと思わないっ?」


甲高い、聞いてるだけで興奮していると分かる少女の声に、応えるのは、


『その話何度目?沙織・・・いい加減眠いのだけど。』


実に眠たそうな、これもまた少女の声。


電話で会話している二人の間には、精神状態に真夏と真冬くらいの温度差があった。


ただ、それも仕方のないことかもしれない。

沙織にはエキサイトするだけの理由があるし、沙夜には睡眠欲を主張する理由があった。

木嶋沙夜は、怒濤の一日に疲れきっていた。


沙織がエキサイトしている理由、それは突然現れた五家が一つ、ヘラー・マーカス家令嬢のミリアムド・ヘラー・マーカスその人が突然、現れたからだ。


『いいじゃない。ミリーさん、結局帰っちゃったんだから。』


そんな少女の何とも気だるそうな回答に、沙織は更にエキサイトした。


「だって、あんなに多くの裏をかいて、一生懸命に演出したのに、最後の最後で美味しいところを・・・」


そんな、エキサイトしてガールズトーク?に花を咲かせている沙織に対し、沙夜は本題を切り出した。


「結局、沙織は何がしたくてあんなことをしたの?」


沙夜にそう言われ、沙織は悩んだ。

沙夜に伝えるべきか悩んだ。

そして、決心した。


「沙夜、誰にも言わない?」


その一言で沙夜は、察した。


あ、この話長い!寝れなくなっちゃう!っと。


勇気を振り絞り、沙夜は提案した。

『明日学校終わってからでも、いい?』


「沙夜の馬鹿!教えて上げないっ!」プツッ ツーツー


電話が切られた。

一方的に。


沙夜は安堵した。

これで、やっと寝れる。


時計の針を見ると、早朝2時だ。


今から寝れば、最低5時間は寝れる。


沙夜はそう思い、目を閉じた。

目を閉じると思い出す、ミリアムドが言っていたあの一言。


虚ろになりながら、沙夜は夢の世界へと旅立った。



----ミリアムド襲来直後


突然、現れたミリアムドに夜鶴は頭を抱えた。

どうしてこのタイミングで、この馬鹿が日本に居る?


今、夜鶴はミリアムド・ヘラー・マーカスと対峙していた。



夜鶴とミリアムド以下ミリーは初対面ではない。

お互い、時期五家当主として、公然の付き合いをしてきた。


ミリーは基本的に、予想通りに動かない。

この場合は、予測通りに動かなくてもいいと置き換えよう。


彼女はヨーロッパ地方の財閥の娘だ。

そんな彼女が日本に居る。


しかも、このタイミングでだ。


状況は最悪だった。


ミリーの専属従者である龍姫もその場に居た。


現在、夜鶴の専属従者は別件で、この場に居ない。

それが完全に仇となった。


日本という国を代表する程の遺伝子が、そこには勢揃いされていた。


ミリーが本気で暴れると、その遺伝子の内二人は、絶命するだろう。


何より、彼女が先程自ら目的を言っていたではないか。


「木嶋勇也をよこせ」っと。


そんな心の内を察してか、ミリーが夜鶴に言った。


「木嶋勇也以外に興味は無いわ。だから、この場に居る人間には手を出さない。」


夜鶴は悩んだ。

木嶋勇也を差し出せば少なくと、遺伝子3人は無事が確約される。


だが、対象が木嶋勇也というのが非常にマズかった。


ミリーは明らかに知っている。


木嶋勇也という人間の特異性を。

そして、恐らくは他の五家の後継者達も。


木嶋勇也が狙われるのは早くとも、後一年先。

自分の見積もりの甘さに、夜鶴は辟易していた。


懸念はミリーの口から肯定された。


「木嶋勇也っていうのは、どこにいるのかしら?五家全ての性質を持ってる異常者は。ここにいるわけではないでしょう?」


やはり知られていた。


木嶋勇也は本来、五家それぞれの役割であり存在意義である、五性質を全て兼ね備えた人間だ。


それ故に、今の今まで関係者のみにしか、その情報は知られていない・・・筈だった。


だが、この場にいるミリーは知っていた。


最悪の事態を想定し、慎重に言葉を選んでいる夜鶴の耳に入ったのは、追い討ちをかけるように携帯電話が鳴り響いた。


凶報だった。


『夜鶴様!大変です!』


「あぁ、大変だ。実に、してやられた。ミリーが今、私の目の前にいる。」


『そ、それどころではありません。』


「この状況よりも、さらに悪くはなることはないだろう。一体どうしたというのだ?」


『データバンクに何ものかが、不正アクセスして情報が、凄い勢いで流出しています!これは・・・兵吾さんくらいにしか、止めることは出来ません!』


苦虫をかみつぶした表情で、夜鶴は、命令した。


「兵吾!今すぐに、逆探知して流出先の端末、若しくは施設ごとこの世から消せ。」


兵吾は、そんな夜鶴の発言に笑顔で応えた。


「お嬢、既にやったよ。ミリーんところの人間が情報を不正に取得してたから、そこにうちの若い幹部を何人か向かわせた。あ、今ちょうどメールが。」


兵吾がそういうと、兵吾の携帯にメールが届いた。


「完全制圧、完了」


メールにはそう、書いてあった。


ミリーはそのやり取りをみて、笑った。

嘲笑った。


「既に私、その情報全部見たから知ってるわ。他の家に、流しても良いけど・・・私は、商売人だから夜鶴。選びなさい。私に大人しく、木嶋勇也を渡すか、今すぐに現金で3兆円用意するか。好きな方で良いわ。現金を貰うか、木嶋勇也を貰えれば、今日は大人しく帰るわ。」


夜鶴は即答した。


「キャッシュで良いか?」


「えぇ。それで結構よ。」


夜鶴は兵吾に目配せをし、兵吾はそれに応じた。

兵吾は青柳とその場を去った。


ミリーは満足そうに頷いた。


「日本円で3兆円って国家予算クラスよね?それに対して、たかが1人引き渡すことよりも、お金を引き渡すなんて・・・私以外にそれは、やってはダメよ?これは、友人としての忠告だから。」


ミリーの言葉の意味を理解出来ない人間はこの場に居なかった。


沙夜すらも、理解した。

兄、勇也は国の国家予算を引き渡しても、守らないといけない存在らしい。


しばらくして、兵吾が黒服数名と共に戻って来た。

手には、アタッシュケースをブラさげ。


そのアタッシュケースをミリーに渡すと、ミリーは満足そうに微笑み、龍姫を連れ、迎えの者と一緒に帰った。


兄はすごい人だったんだな〜


人ごとのようにそんなことを考えていると、それを察し、夜鶴は呻きながら漏らした。


「木嶋沙夜・・・お前と菱宮沙夜もそうだからな。」


その一言で、沙夜は絶句した。


夜鶴の一言は、考えると当たり前のことだった。


勇也は二人の兄だ。

ということは、普通に考えると兄の勇也がそうだということは、妹の菱宮沙夜と沙夜もそうなる。


夜鶴は更に言葉を続けた。


「だが、木嶋家の性質には落とし穴があった。単純に五家の性質を全て備えてはいるがそれは特定の条件でのみ、機能する。」


「その特定の条件って何なんですか?」


「木嶋沙夜に菱宮沙夜・・・お前達は知らなくていいことだ。」


夜鶴は冷たく二人に言い放った。


「知っても良いけど、まぁ引き返せなくなるよ?それでもいいのかな?」


釈然としない二人だったが、兵吾の一言で態度を改めた。

世の中には往々にして知らないことの方が幸せなことが多々ある、


「木嶋沙夜、菱宮沙夜。お前達には、今まで通りの学園生活を送ってもらう事になる。」


夜鶴は二人にそう言い放ち、その場を後にした。


そして、冒頭部分に帰結する。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ