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DeuxEngage~If story~  作者: 黒猫軍曹
6/9

プロローグ:流儀

暗闇...

それが最初の印象...


体を動かそうとしても自由に動かすことが出来ない。


何かで拘束されているようだ。


木嶋沙夜は冷静に、かつ慎重に記憶を呼び戻す。


そして気付く。


「拉致られたのだと」


暗闇にいるという感覚もに少し違和感を覚えた。


目の当たりに違和感があったのですぐに理解した。


「アイマスク等で目を覆われているのだと」


自分の置かれている状況を再度整理する。


静の家からの帰路で突然、黒塗りの車から出て来た黒服の男達に突然布を口に押当てられ気付けば、こんな状態だ。


さて、どうしたものかと考えていると自動ドアの開閉音が聞こえてきた。


そして、目を覆っていた物が外された。


やけに真っ白い部屋だった。


最初目が明るい所に慣れていないせいかと思ったがどうやら、本当に真っ白い部屋だったようだ。


部屋に入って来た人の顔を見ようと目を凝らしてみた。


次の瞬間沙夜は驚愕した。


「え?静?」


そこには静と1人の男・・・兄、勇也が居た。



---時を遡ること5時間前


とある建物の一室。


静は焦っていた。

その隣には、澄ました男が居た。

外見年齢は20代中頃のようなものだが、外見年齢より遥かに大人びた雰囲気を持っていた。


男は焦っていても何も解決をしないことを知っていた。


男は静をそう嗜めていたが、静はそれを受け入れない。


「静、良い加減に落ち着きなさい。みっともないですよ。」


「アンタこそよく、そんな落ち着いてられるな!沙夜が、沙夜が誘拐されたんだぞ!?」


男はため息をついた。


「はぁ・・・相手がわかっている以上こちらとしては何も心配はいらないと先程から言ってるじゃないですか・・・」


「どこの誰かわから・・・は?」


「あれ?私、言いませんでしたっけ?」


「おい、聞いてねぇぞ。・・・兄貴」


「あ〜そういえば言ってませんでしたね。相手は菱の家の者ですよ。」


「な、なんでそんなことアンタにわかんだよ!」


「え?沙夜さんに警護をつけていたからに決まってるじゃないですか。」


男はさも当然と言うように言った。


静の兄、光乃雫は有能であり優秀だった。


だが欠点もある。


主人が居ないと単なる天然さ並な人間になる。


昔から彼は、自分が付き従いたいと思った人間以外の事柄以外は全て及第点とは言えなかった。


しかし、幼き頃に浮島の嫡男「敦」と出会ったおかげか、身内以外からの評価が及第点を下回ったことは無い。


逆説的に、だからこそ天才のさらに上を軽々と超えていき世間の評価は神童だった。


そんな兄の性質に静は呆れ果て、


(あぁ、そういえばこんな人だったな。)

思い出す。


怒る気力を全て持っていかれた。


何より懸念していた拉致誘拐よりも安心出来そうだと心のどこかでそう思った。


しかし、すぐに違和感に気付き、違和感の正体を知った。


(どうして、菱が沙夜に今手を出した?)


そんな表情を読み取った雫は答えた。


「それは、あちらのお嬢様の気まぐれと餌にするためでしょうね。」


「餌?何のだよ?」


「先程から言ってるじゃないですか。木嶋沙夜さまは木嶋勇也さまをおびき出す餌にされた、と」


思い返す。

そして結論を出す。


「おい、初耳だ。」


「あれ?言ってませんでしたっけ?」


そんなどこかの天然魔人さんを静は放っておくことにした。


放っておかないと体力がいくらあっても足りないからだ。


さて、そんな天然魔人さんの言うことを静は整理した。


1.木嶋沙夜は、菱の家の者が拉致した。

2.木嶋沙夜は、木嶋勇也をおびき出す餌にされた。


上記から静は答を導き出した。

何の?

犯人の。


犯人は・・・


「菱宮沙夜か・・・」


兄はその回答に上出来といった顔で頷いた。


「目的は、勇也さんと会うことか。でも、許嫁なのだから普通に会えるだろうに・・・何より、今勇也さんは無職だろ?時間なんていくらでもあるだろうし・・・どうして、そんな手間のかかることを・・・」


「それは、沙夜さまが菱宮沙夜の片割れだから、木嶋勇也さまに会う前に見ておきたかったからでしょうね。」


静は納得がいったように1人頷いた。


しかし、雫の次の一言でまた疑問がわいた。


「勇也さまは、現在無職でしたが平坂家が接触してますからね。いくら、菱だからといって迂闊に手を出せないという事情もありますしね。」


そうだ。

平坂が勇也に接触していた。


だが、どうして?

このタイミングで?


どう見ても、現状をややこしくしているのはあの胡散臭い男「高野兵吾」その人な気がしてならない。


そんな疑問を抱いていると雫が突然、


「そろそろですね。」


そう言ってドアの前に行き、恭しくおじぎをした。


何故わざわざ出迎えを、という疑問を静が抱いても、ドアが開いた直後に氷解したことだろう。


ドアから入って来たのは、見知った顔、沙織と・・・「浮島敦」だった。


「静、もう雫から話は聞いたのか?」


単純に驚いたというだけでない動揺を見せた沙織に代わって、敦が素朴な疑問を呈する。


「既にお話済みです。」


やはり咄嗟に言葉を失った静の代わりに、雫がごく短い答えを返す。


短い沈黙が流れた。


最初に口火を切ったのは、沙織だった。

少し、敵意を露にして。


「雫さん・・・静がどうしてここに?」


通常、対人感情は鏡の性質がある。

好意は好意を呼び、悪意には悪意が、敵意には敵意が返される。


そんな感情の反射動作を利害認識及び計算でコントロールするのが大人の分別というやつなのだが、今回の相手は大人の雫だ。


「それは、私が呼んだからです。」


敵意を笑顔で軽く受け流され、沙織は戦意を喪失した。


それを見て、敦はくっくくと笑った。


「沙織、お前にはまだ雫の相手は無理だ。今みたいに、軽く去なされ戦意を根こそぎ持ってかれて終わる。」


敦にそう言われ、沙織は少しだけムッとした表情になった。一方、雫は敦に対し恭しくおじぎをした。


そんな雫のおじぎに対し敦は手で答えた。


「さて、俺の花嫁が菱のお嬢様に拉致られたワケだが、雫どうすればいい?」


「静に聞きましょう。」


「それ、面白そうだな。それで行こう。静、どうしたい?」


突然話を振られ、静は取り乱した。


「どうしたというのは?」


「ん?そんなの決まってるだろ?静は俺が何の事業をしてるか知ってるんだっけ?」


「はい。確か、軍事兵器の開発、運用、輸出を・・・」


「なら、その<俺が>出来ることは何だ?」


「まさか・・・兵器を菱の家にぶっ放すとかではないですよね?」


「というのを、静は望んでるらしいが、雫。今って撃てるのは何がある?」


「現在ですと、ロシアの大統領に頼まれた最新の長距離弾道ミサイルが20発程度あるかと。」


「んじゃ、いっちょ、ぶっ放せ!派手にな!」


静は、考えることを放棄した。


正確には、その時間がなかった。


気付くと雫が敦に携帯電話のような端末を渡していた。


そして、次の瞬間・・・


ぴぽぱ。


ボタンを押す音が聞こえた。


沙織を見つめる。

オワタと体で体現していた。


次の瞬間部屋の大型ディスプレイにライブ映像が入った。


何の?


長距離弾道ミサイルの発射シークエンスの。


5.4.3.2..Fire!!


発射された。

どこに何が?


菱の家に、ロシアの大統領依頼の長距離弾道ミサイルが。


「はやっ!ミサイルってこんな早いの?」


そんな沙織の感想に敦が


「ん?あ〜従来の3倍程の速度出るからな。」


と答えた。


部屋が非常に緩やかな雰囲気になっていた。


だが、静はすぐに


「ちょっと!敦さん!ダメですよ!まだ、沙夜があそこに!」


「あ〜心配しないでいいよ。見てりゃわかるから。」


敦の次の言葉を静はすぐに理解することになった。


残り20秒で着弾というところで、菱の家からどデカイレーザーが発射された。


そして、長距離弾道ミサイルは照射されたレーザーにより消し飛んだ。


「なんだ、ありゃ・・・」


「雫、説明してやれ。」


「はい。若。」


「あれは、浮島家がお隣の国の弾道ミサイルを撃ち落とすために開発した新型長距離弾道レーザーSubaruです。今なら、お値段2兆4千万円です。」


「というわけだ。」


最後は敦のその一言で、突然始まった深夜Tvの通販ショッピング劇は幕を引く。


何とも言えない空気に堪え兼ねた、沙織が本題に軌道修正をした。


「菱の家に沙夜がいるのはわかってるけど、下手したらあの軍事兵器を相手にしないといけないの。わかった?つまり、私たちは見てるだけしか出来ないの。」


沙織のそんな一言を頷いて聞いている雫が突然、ドアに蹴りを打ち込んだ。


防火扉並みな厚さの扉が凹んだ。


「雫くん。危ないじゃないか。普通の人だったら、今頃死んでるよ〜」


ドア(残骸)から入って来たのは、男だった。


「兵吾さん。本日はどういったご用件ですか?」


高野兵吾が立っていた。

無傷で。


珍しく雫が敵意むき出しだ。


雫と共に暮らしていた静と敦にしかわからない程度の敵意だが。


「え〜つれないな〜。僕は、頼まれたものを届けただけだよ。」


兵吾の返した答えを聞き、静が少しだけ険しい顔になった。


「それは・・・勇也さんを菱に届けたという認識で間違いないですか?」


「いやぁ〜いいね!うん、うちに欲しいくらいに聡いね。君は。そうだよ、うちのお嬢が菱のお嬢様に何か、頼まれたらしくてね。お嬢もしぶしぶ引き渡した感じだよ。」


静は驚愕した。

平坂を菱は動かせるのか?


そんな疑問に、いつの間にか兵吾の隣に立っていた、否ずっとその場にいたが存在を認識できないでいた女性が答えた。


「静様。平坂はあくまで中立です。どちらの家にも組しているわけではございません。」


「青柳さん・・・」


静はその女性を知っていた。

青柳。


平坂家の幹部である、高野兵吾の専属従者。

雫とサシで殴り合える、化け物だ。


雫は、古武道を極めて気で身体能力を弄っている。


それに対し、青柳は化学の結晶体である。

とある医者のオペを受けて、化け物へと昇華した、そんな存在だった。


静は丁寧に、かつ慎重に言葉を選んだ。


「兵吾さんはどうしてここに?」


「ん?そんなの面白そうだからに決まってるでしょ。」


静は頭を抱えた。


「静。この人に言葉は通じません。気にしないで下さい。居ないものだと思わないと疲れるだけですよ。」


「雫。流石だな。兵吾相手にそんなことを言って青柳が殴りかからないのは世の中でも数が知れるというだろうに。」


そんな敦の言葉に兵吾は少し嫌そうな顔をしながら答えた。


「敦のぼっちゃんもそのうちの1人でしょ。格が違うから僕じゃ無理だよ。お嬢でも厳しいだろうしね。ヘラーマーカースのお嬢様と二人だけで殴り合って、人工島ドルフィーが半壊なんて・・・」


「あぁ。あれは、楽しかったな!またやりたい!」


「若。話がそれてます。」


「おおっ、そうだ。兵吾。さっき、言っていた勇也の件だが勇也にはどこまで言ってるんだ?」


「え?やだなぁ〜まだ、その時じゃないから眠ってその間だけの面会だよ。まだ、こちらの事は伝えてないからね。」


「あぁ。ならいい。」


そんな敦の含み笑いに思う所があった静だが、今はそれよりも沙夜のことだ。


「沙夜は無事なんですね?」


「それは保証するよ。」


兵吾がそう答えた。


「さて、どうするかな。何もしないのは俺の流儀に反するわけだが。」


敦がそう漏らした。


「ま、今回は面白そうだから僕に策があるんだけど聞いてくれるかな?」


兵吾の提案に一同は同意した。

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