プロローグ:邂逅
突然、静の家の電話が鳴った。
電話のディスプレイにはTv電話の表示が出ていた。
静がバツの悪そうな顔をして、渋々電話に出た。
「もしもし?」
男の声だ。
「静、私だ。誰かわかるか?」
何より静は、この声に覚えがあった。
「親父・・・だろ?」
「あぁ。私の姿を映してないのに、よくわかったな。」
誉められてる筈だが、全くそう思えない静
「このタイミングで電話が鳴るなんてアンタから以外あり得ないだろ。」
「用件は・・・言わなくてもわかるな。」
「これ以上は、言うなって事だろ?」
「わかってるなら、いい。」
そんな一言しか喋らない男に対し、静は吐き捨てるように言った。
「久しぶりの親子の会話とは思えないな。もう少し、俺に聞きたい事とかないのかよアンタは」
「ないな。」
「ちなみに、俺はアンタとの血縁関係をぶった切ってでも沙夜に言う事だって出来るんだぜ?それは想定してないのか?」
男は鼻で笑い
「お前には無理だ。」
一言そう言った。
「なぜ、そう言い切れるんだ?アンタが俺の何を知ってるというんだよ!家にまともに帰ってこない。俺と最後に会ったのはいつか覚えてるか?」
男は、即答した。
「なぜ・・・だと?それは、お前が光乃の人間であり俺の息子だからだ。」
男が即答すると、今まで何も映っていないディスプレイに突然、執事服を着た40後半くらいの男性が立っていた。
静は、吐き捨てるように言った。
「はっよく言うな。出来の悪い息子だろ!兄貴と違って俺は、何もかも中途半端だ!」
男は、抑揚のない声で
「そう思ってるのはお前だけだ。何よりお前は常に手を抜いている。」
そう言った。
静は、自分が父親に対して向きになってる事を自覚しながらも更に、畳み掛けた。
「俺が手を抜いた?いいや、違うね!俺は全力を出した。その結果、負けたんだ!ほらな!アンタはやっぱり何もわかっちゃいない!」
静の返答に対し工程も否定もせずに男は、逆質問をした。
「中等部3学年の時の全国空手選手権の決勝時にお前、対戦相手には家族や友人が応援に来てるというだけで手を抜いたな?」
静は、何を適当な事を言ってるんだと思った。一度も試合を見に来た事が無いアンタが何でそんな事わかるんだ!いや、わかるわけがない。静はそう結論づけた。
「そんなわけないだろ!俺は常に全力だ!」
「ならどうして、残り時間わずか数秒で上段回し蹴りを顔面に入れれば勝てる場面で敢えてポイントの低い中段回し蹴りに切り替えた?」
その回答に対し思わず「え?」という表情を静は浮かべた。
「何でアンタがそんな事知ってんだよ・・・試合でも見に来ないとわからないような・・・」
「それは」
男が返答しようとすると、別の人間が代わりに答えた。
「あら、アナタ。誰と話してるの?あら?静じゃない!」
電話のディスプレイに妙齢の女性が現れた。
静の父親の発言を遮って。
「おふくろ・・・」
静はぽつりとそう呟いた。
「静。お父さんには内緒にしろって言われてたけど、中等部の全国大会の決勝、お父さんこっそり見に行ってたのよ。」
「は?」
静は、父親に先程の試合の詳細を言われて驚いたときよりも更に驚いた。
母親は続けた。
「雫はアナタと違って確かに何でも出来たけど、逆に親からすればアナタみたいな子の方が手を焼いてくれて楽しいのよ。何より、雫は何も言われなくても出来るから私たちなんて気づいたら抜かれてたわ。」
「どういう・・・」
意味が分からないという表情を浮かべた静に対し母親は言葉を紡いだ。
「静。あなたちゃんと、勉強してるの?ここまで言われてまだ気づかないなんて・・・なんて・・・なんて」
静は母親に馬鹿にされると思っていた。
しかし、意外な返答が返って来た。
「愛おしい子なのかしら!あぁ、今18歳よね?こんなに出来が悪いなんて・・・素敵すぎるわ!ね?あなた!」
「静。今言われた事は忘れなさい。例の件はちゃんと守りなさい。」
そう言うと電話がきれた。
「はぁ・・・なんだろ。」
思わず、そう漏らした。
沙夜の存在を忘れ。
「さっきのっておじ様とおば様だよね?」
「あぁ。」
その場に沙夜が居る事を思い出しいつもの、静に戻る静。
「出来が悪い方が愛おしいってすごい褒め言葉だよね。」
何とも言えない表情を浮かべている静に対し、沙夜は近づきながらそう答えた。
「やめてくれ。結構複雑だ。俺、正直両親には好かれてないと、俺への関心なんてないと思ってた。でも、実際は違ったんだな。」
沙夜はどこか、得心の言った表情で
「静の親らしいね。」
一言そう言った。
「どういうことだよ。」
「え?そのままの意味だよ。」
「なんだそれ。あぁもうこんな時間か。沙夜。今日はお開きだ。」
静の一言で、今日のお話会は終了した。
正直、沙夜からすれば聞きたい事は山程残っているが、別に今日一気に聞く必要は無い。
彼女達には時間があるのだ。
何より、静の父親にこれ以上は言うなと釘を刺されている。
そんな静に対し無理強いを敷く気に、沙夜はならなかった。
「うんわかった。」
「送るよ。」
「いや、大丈夫だよ。今日は今から見たいDVDあるからちょっと寄り道するし。」
「そっか。わかった。気をつけてな。」
いつもなら、意地でも送ると言う静だが今日は簡単に引き下がった。
やはり、先程両親から言われた言葉が結構効いたらしい。
「うん、また明日学校で。」
そう言い、静と別れた沙夜。
1人考え事をしながら、路上を歩く。
静から聞かされた情報を頭の中で、精査し整理していく。
一台の車が静の家を出たところから、ずっとついて来ている。
普段だとすぐに気づく危機管理能力がある沙夜だが、夢中で考えていたため、尾行に気づいてない沙夜。
曲がり角に指し当たる所で車が沙夜の前で突然止まり、ドアが開いた。
一瞬の出来事だった。
中から出て来た黒服の男達に薬を嗅がされ、意識が遠のいていく沙夜。
闇夜に霞む車
街灯にボンヤリと浮かび上がる
深紅のドレスと、漆黒の黒髪。
その場に横たわる少女「木嶋沙夜」を、少女「菱宮沙夜」が冷ややかに見つめていた。
ここまで意外と早いようなかなり時間がかかったようなとても、不思議な気持ちで今あとがきを書いております。この小説家になろうの「DeuxEngage I f Story」は元々ゲーム用のシナリオを超監督が、ゲームリリース遅れるならWEB小説として出せばユーザーに迷惑はそこまでかからないんじゃない?という爆弾発言から、発足されたProjectです。毎度の事ながら、無茶振りです。
もう、なれましたが(笑)
さて、次回の物語から「木嶋沙夜」と「菱宮沙夜」を中心に物語は展開されます。あ、次回でプロローグは最後です。プロローグを締めくくるに相応しいクライマックスを用意しておりますので、次話も是非よろしくお願い致します。