プロローグ:きっかけは1枚の手紙から....
現在、なろうで連載中のDeuxEngage~The Real World~のIfStoryです。
主人公勇也の妹視点で、展開される完全新ストーリーで、本編のネタバレが微量に含まれております。
私には兄が居る。
兄は、何でも出来るが何もする気の無い人間だ。
何でも出来るというのは単なる身内びいきの評価ではない。
文字通り、何でも出来るのだ。
ただ、それはあくまで一般的に見れば何でも出来るのであってプロ目線で見るとその程度しか出来ない。
兄は高校卒業時に上京してその後、約半年間の間誰とも連絡が取れなくなっていた。
そして、半年振りに兄の携帯から私の家、つまり兄にとっての実家に電話がかかって来た。
すぐにお母さんが電話に出て、「あなた今まで何してたの?連絡しても電話が通じないし。ちゃんと仕事頑張ってるの?あ、お父さんが話があるそうだから、変わるわね?」
母はそう言い父に代わった。
私の家の家族構成は、父母、9個上の一番上の兄、6個上の姉、3つ上の二番目の兄、そして一番下の妹である私の6人家族だ。
一番上の兄は、美容専門学校を卒業して美容師になりその後、兄の常連客だったとある企業の社長令嬢と結婚し婿養子であちらの家系にうつった。
姉は何でも出来るが、人のサポートをすること好み、とある企業の社長秘書をしている。
世間一般的に見るとうちの家系はエリートかもしれない。
しかし、兄は。兄だけは違った。
兄は高校卒業すると同時に父に「俺、卒業したら就職するから。」っと、言い父も父で「あぁ、そうか。わかった。仕送りは一切しないからな。」っとだけ言い兄の就職を咎めもせずにただただ、一言だけ言って了承した。エリート街道を自ら拒絶したのだ。
うちの家系は少し特殊らしかった。
父は半ば勘当同然で、家を出て母も右に同じだ。
しかし、母の母。つまり、私たちにとって「祖母」にあたる人が私が3歳の頃に事故で大けがを負い母の方に「一度実家に帰って来て欲しい」と電話をして来た。父は即、帰ろうと言ったが母は渋りながらこういった。
「私は、貴男の家に嫁いだ身です。それなのに、またあの家に帰るのは少しおかしい。」
その言葉を聞いて普段温厚だった父が怒った。
怒ったというのは語弊があるかも知れない。
アレはそんな生易しい物ではない。
ぶちキレた。
といった方が正しいだろう。
「自分が人の事をどうこう言える立場ではないが、まだあの人たちが生きてるうちにあの家との禍根は解消するつもりだ。お前も、禍根を残したまま、お義母さんと別れていいのか?いいわけないだろ!人間は死んだらもう終わりなんだぞ!」
それを聞いて母は実家に帰る事にした。
しかし、既に一番上の兄と姉は学校に通っていた。
二番目の兄はまだ小学一年生になる前だ。父と母は話し合った末、こうなった。
一番上の兄と姉はこのままこちらで暮らす。
兄は来年から中等部1年生で姉は初等部3年だ。
もちろん、本人たちに聞いた上での決断らしかった。
兄と姉はこちらで、親戚の家の人がこの家に住んでその人たちと一緒に暮らす。
私と兄は、山口の母の実家に戻る。だが、夏休み等の長期休暇は一番上の兄と姉は山口に最低1週間だけ帰省する事。また、私と兄は東京に戻ってもいいしあちらにずっと居てもいいらしい。
そんなこんなで私は、15歳まで山口で育った。
何故、15歳までかというと祖母が亡くなり山口に居る必要が無くなったからだ。
山口に馴染めなかった、いや馴染もうとしなかった私としては非常に良い話だった。
兄も兄でちゃんと高校卒業したら東京で就職するということだったので問題は無かった。
いや、あった。
東京に戻っても既に、あの家には親戚が住んでいる。
でも、そんなの問題ではなかった。
結果としてだが。
結論から言うと、親戚は新たに家を購入してそちらに住んでいたのだ。ただ、あの家の管理だけずっとしてくれていたようだ。
父の妹、つまり私からすれば従兄弟のおばさんは兄に頼まれた事をきちんと最後までしてくれていたのだ。
まぁそんなこんなで私の家の問題はすんなり解決した。
その後、半年程兄からの連絡は一切来ないしとれないそんな状況が続いた。
兄から電話がかかり母が応対し父が変わった。
そして、父はこういった。
「1ヶ月だ。1ヶ月で再就職出来なければ。お前に話さないと行けない事がある。本来独立して頑張っているお前には関係ない話なんだがな...まぁ、再就職出来なければそうも言ってられん。わかったな?」
兄は一言
「わかった。」
そういい、電話を切った。
父はその電話をにぎりしめ私に今から話があるから居間に来なさいと言った。
なんだろう?あの父が...私たちの教育について非常に放任だったあの父からの話。
気になり、すぐに居間に向かった。
父は既に座椅子に腰をかけてそしておもむろに1枚の封筒を取り出した。
そして私に読んで見なさい。と言った。
私は恐る恐る手紙を開封した。
宛名は父と私と兄へのものだった。
手紙の内容は中々受け入れたくない内容だった。
「この手紙を読まれているということは、お嬢様か勇也様のどちからで良いという事でしょう。
私共としましては、勇也様が良いのですが、そちらは両家の話し合いで決めるべきこと故、ここでは深くは言明致しません。
お嬢様である沙夜様であるなら、浮島の。おぼっちゃまである勇也さまであれば、菱の。
家督を継いで頂く事となります。
本来、家督の継承を放棄された貴男様にはこの権利は無いのですが、決まり事ゆえ何卒ご了承下さいませ。もっとも、本来存在しないゆえに日本の法律でどうこう出来る事ではないのは貴男様が一番よくご存知とは思いますが。
尽きましては、さる1月1日にご縁談の席を儲けさせて頂きますので是非、決まりました方をお連れしご出席下さい。
末筆ながら失礼致します。」
何が起きたのか即理解した。
この201X年に今時まだあるのかは知らなかったがあるところにはあるらしい。
そう、これはお見合いの話だ。
しかも、来年の1月には私も16歳になっており結婚出来てしまう。
父はおもむろに、父と母の家系の話をした。
話を聞くと信じたくないが思い当たる節がないわけではなかった。
このままいけば兄、勇也がお見合い結婚をする事になるそうだ。
だが、もしも兄が就職出来てしまうと...私が対象に...
冗談じゃない。16歳で結婚なんて。
まだ、やりたいことは山のようにある。
というか、なんでこの話をいままで私たちにしなかったのかが謎過ぎて泣けて来る。
流石に私も馬鹿ではないため、<普通の家>とは違うという事くらいはわかっていたつもりだ。
だが、流石に想定外だった。
礼儀作法とかは、私立の学校に通わされるから教えられたと言われていたし、親戚付き合いもあまりしたくなかったため極力借りてきた猫のような態度をとって事無きを得ていた。
しかし、これが現実だ。
少女漫画みたいな展開は正直嫌いではない。
ただし、それは私が当事者でないからいいのであって当事者だと絶対に嫌だった。相手がどんな人間かもわからないのに結婚なんて...
しかし、浮島という名前には心当たりがあった。
兄の友人にその名前が1人居たからだ。
確か名前は敦。
福岡のとある財閥の分家?の子だったような気がする。
兄の相手の菱というのはなんだろう?聞いた事が無い。
頭が混乱した。
整理する時間が必要だろうから今日は寝なさいと母に言われた。
そう言われ、私は自室で眠る事にした。