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ルノセト

気持ち

作者: 灰空

 昔から僕は人を愛することがなかった。 家族も友達も、親友も、皆大好きだけれど、愛し合うという想像はできなかった。 自分が無性愛者と気付いたのは何年か前のことか。

 幸いねこ都では性別という概念がほぼなく、それで差別されることはなかったのが不幸中の幸いであった。 異性が好きでも同性が好きでも、その両性を好きでも当たり前のことだという。 もちろん誰も好きにならないのも割合こそ少ないが普通らしい。

 それと僕は告白されたことがない。  自分に魅力がないのか、よく分からないが告白されたことがないのは幸いだった。 愛されることがなければ僕は無理して愛するフリをする必要がなくなる。 素直に断ればいいじゃないか。 そう思いたいが相手の気持ちを無下にするわけにはいかないのだ。それは失礼だ。 でも、むしろ好きじゃないのに付き合うという方が失礼かもしれない。 残念ながら僕に恋愛は分からない。 もっと勉強した方がいいのだろうか?

 自由気ままに生きて死んでいけばそれでいい。 それが僕の考え方だった。 誰にも邪魔されず自由に生きたい。 そんな僕の理想。

 しかし、その考えはすぐ壁にぶつかることとなる。

自分は親友に告白されたのだ。


「セトが好き」


 その言葉を聞いた時、固まった。 親友は、ルノは一体何を言っている? 僕が好き?

そうなのか。 全く気付かなかった。 僕は筋金入りの鈍感だ。 そういえば昔、千草にセトは鈍感だね、と笑われた覚えがある。

ルノは別の男と付き合って添い遂げるのかと思っていた。 何故男に限定したかというと、彼女は将来は子供を作りたいなあ~と言っていたからだ。 子供は女と女では作れない。 男と女でなくてはいけないのである。 もしかすれば僕との子供が欲しかったのだろうか。


「どうして僕が?」


どうして。 その言葉しか出てこなかった。 今まで告白されたことがないだけにそれはとても驚いた。唖然とした。


「あのね、私。 セトののんびりしているところが好きなんだ。 他にはちょっと抜けてるところ。 支えてあげたいなって思っちゃうの」


なるほど。抜けている、のんびりしている。確かにそんな気がする。 昔、お母さんにセトは抜けているからもっとしっかりしなさい。将来のお嫁さんだか旦那さんだか分からないけど、迷惑をかけるわよ、と言われた。

そして彼女は僕のことを支えてあげたいという。 僕は自分一人で生きていく予定だったんだけどなあ。


「ありがとう。 僕、初めて告白されたからそういうのよく分からないんだ」


ルノの気持ちはとても嬉しい。 それは本当だ。好きと言われて嫌がる人なんてきっといない。 少なくとも僕はそう思っている。


「そうなんだ……。 ごめんね……」


ルノはがっかりとしている。 どうしよう、何か声をかけてあげるべきなのか。 恋愛をしたことがない僕には全く分からない。 恋愛要素のある漫画や小説すら読んでいないのだ。 恋愛というのはどこか遠くにあるものだと思っていた。

風がひゅうっと吹いた。 葉桜が僕らの間に舞い落ちてくる。


「こっちこそごめん。 ルノの気持ちを無下にしたいわけじゃないんだ。 僕、本当に恋愛ごととか分からなくてとっても困ってる」

「本当にごめんね……。 セト、好きなひととかいないって言ってたし、恋愛の話もあまりしてこないし……。 いけると思ってたんだ」


ルノと恋愛の話なんてした覚えがなかったなー。 好みタイプはなに?って聞かれた覚えもある。 好みのタイプ?なんだろうそれは。 今思えばルノは僕の好みのタイプになりたかったのかな。いつから好きだったんだろう。


「恋愛ごととか分からないというか……なんというか。 あのね、 ルノ。 僕は無性愛者なんだよ」


「無性愛者?」


「恋愛感情を持たないひとたちのこと。 僕はきっとそうだと思う。 昔から恋愛なんてしたことがないんだ。 僕はルノのことは好きだけど、ルノへの好きとはきっと違うと思う」


小さい頃、お母さんとお父さんが愛してるよ、だなんて言い合っていた。 きっと二人の言う『愛している』とルノの『好き』は同義だ。


「そうなんだね……」


「ルノはひとを愛することができるねこ。 僕はひとを愛することのないねこだよ」


きっとルノは僕を好きになっても幸せになることはないのだろう。 ルノに愛を注いでもらっても僕はそれに答えることができない。


「だからね、ルノ。 僕を好きになるのは止めた方がいいよ」


 なんてもう好きなのか。 心の中で突っ込みをいれる。


「…………」


「あのね、僕はルノとは親友として付き合っていきたいと思う。 決して嫌いになったりしない。 本当だよ」


 ルノのことは大好きだ。 この気持ちに嘘はない。 でもこの大好きはルノの好きはきっと釣り合わない。


「……今日は私のためにわざわざ来てもらってありがと。 セト。 私、帰るよ。ばいばい」


「ばいばい。 またね」


 ルノは帰って行った。黄色い影が小さくなる。 今の彼女はとても儚い。 塵となってどこかへ消えてしまいそうだ。

五月の風が吹く。 再び葉桜が舞い落ちる。

悪いことをしたなー、なんて思う。 もしも、あそこで自分も好きだよ、付き合おう。 なんて言えば彼女はきっと喜んでいただろう。でも、それはルノに対して失礼だ。 嘘をつくことになる。 昔からお母さんから嘘は幸せな嘘だけついていいと言われていた。 あの時考えていた好きなフリをするというのはとても失礼なことで嘘を嘘で塗り固めることとなるのだ。 僕は嘘は絶対につきたくない。

 そんなことより今はルノが心配だった。 あのまま僕の前から消え去ったりしないだろうか。とても不安だ。ルノは心は弱くない子だが、それでも心配だ。 もう何年もいる大切な親友だ。 失いたくない。

 僕は明日、ルノの家へ行こうと決意をした。 ルノの家と僕の家は遠くない。歩いて行ける距離だ。 僕はベンチに座り込み、肩の力を抜いた。


 「これからどうなるんだろう?」


今の僕には全く分からない。

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