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2話 置いてきぼりの主人公

不意に自分の心臓がドクンと跳ねる。

何故一発で見破られた?

かなりのハイレベルプレーヤーであるキショウでさえ、自分のことを話さなければわからなかったはずなのである。それを一発で見抜く・・・。

それに対して寒気がするも当たり前だが、しかし同時に俺の頭には、『ある予感』が芽生えていた。

話は変わるが、日本人は、同じアジア圏内である中国や韓国に人間とだいぶ顔立ちが似ている。中にはほぼ見分けがつかないほど似ている者もいるだろう。

しかし殆どの場合、それが同郷の者であると本能的に察知してしまう。

これはアジア系列に限った話ではない。

アフリカであろうがヨーロッパであろうが、それぞれ国のしきたりや習慣、顔立ちから大体の見分けがつくものだ。

話を戻すと──つまり、自分と同じ匂いのする奴は、本能的にわかってしまうのだ。

今目の前の女性は、俺のことを【浮浪者】だと言った。

繰り返すが、それはキショウでさえ見抜けなかった事実である。勿論彼女がそれ以上にハイレベル、もしくは目の効いたプレイヤーである可能性は否定できないのだが、しかしそれよりもこう考える方が自然だ。

落としていた視線をそちらへ向けると同時、女は言った。


「そうよ、私もあなたと同じ【浮浪者】なのよ。」


穏やかに笑う彼女に対して、戦慄する俺。

まさか──まさか、こんなにも早く自分と同じ境遇の人間に会えるとは。

元の世界へ帰る道のヒントに近づけた歓喜と、目の前でニッコリと笑っている彼女に対する謎の違和感、そして畏怖。

ただ立ち尽くすことしかできなかった。

一律には表せない感情が溢れて、心中の何もかもを吐露してしまおうという気持ちに苛まれる。

しかし、そんな異様とも言える空気も長くは保たなかった。

湖から這い出してきたキショウの、そのあまりにも間抜けなゲッソリとした顔を見た瞬間、自分の中の緊張が解けるのがわかった。

頭に引っかかる海藻を苦笑しながら取ってやり、玄関先でもなんだから、という彼女の言葉に甘えて俺達は奥のリビングへと向かった。



「私の名前はエリナ。こっちに来てから一年程経つわ。以後、お見知りおきを。」


キショウを文字通りぶっ飛ばすほどの力を持った女性は、優雅な仕草と共に名を名乗った。

エリナ、というらしい。


「俺は・・・カイト。こっちに来てまだ一日も経ってない。以後、宜しく。」


優雅な仕草も、とまではいかないが、同じような言葉で語尾をくくる。

今のところ危険な空気は流れてはいないが、一応一動作ずつに気を配っていたほうがよさそうだ。

高級ポーションを3つ程使って、やっと体力が8割ほどまで回復したキショウを見るに。


「それにしてもエリナ・・・お前も【浮浪者】だったのか?」


ステータスを確認し終えたキショウが言った。

え? ちょっと待て。コイツ知らなかったのか?


「ええ、そうよ。なにか問題でも?」

「問題でも? って・・・。なんで教えてくれなかったんだよ。」


軽く不貞腐れたように言うキショウ。

惨め且つ見るに耐えない顔をした彼だが、その言動の内容には多少理解できる部分がある。


「仮にあなたに言ったとして、アンタはそれを信じたかしら? 周りのプレーヤーと同じく、軽い冗談として受け流したんじゃないの?」

「・・・・・確かに、否定はできんが・・・。」

「それに、アンタから教えてくれと言われた覚えもないし、こっちから言う程の関係でもないしね。まだ文句があるかしら?」


質素なテーブルクロスの上に置かれた紅茶に手をつけるエリナ。

その光景はまさにお嬢様だが、それは間違いだと先程の吹き飛ばされたキショウの光景が物語っている。


「さて、本題に入るわよ・・・・・っていうか、アンタ達何の用で来たの? こんな辺鄙な場所まで来るってことは、相当重大な事なのかしら。 キショウには街の情報屋との線もあるし、わざわざこっちまでくるような重大な話ってことは・・・。」


エリナの視線が俺を射抜く。

鋭い視線に体が硬直するが、しばらくすると彼女は力を抜いてこう言った。


「大方、カイト君の面倒でも見てもらいたくてこっちに来た?」

「本当にお前はそういう勘に長けてるよな・・・。そうだよ、丁度俺の方のバンクの金も消えててな。銀行まで行ったとしても男二人じゃ1週間も保たねえのはわかりきってんだ。少し力を貸してくれないか?」


向かいに座るキショウが頭を下げたので、俺も慌ててそれに倣う。

暫くの後に判断材料を求めたいと思ったのか、エリナはこんなことを聞いてきた。


「仮に私が彼を家に泊めたとしましょう。アナタはそれで私に何を望んでいるの? アンタなら今の残金がなくても、一ヶ月程度の金は稼げるはずよね?」


ビクン! と肩を震わせるキショウ。

おいちょっと待て。コイツはそれが面倒で俺を預けに来たのか?


「第二に、どれくらいの期間彼を住まわせればいいのかしら? まさかこれからずっと、とでも言うんじゃないでしょうね。」


再びビクン! と肩が震える。

なんてわかりやすいんだ・・・。


「最後に、それで私になんの見返りがあるの? 彼に冒険者としての基礎を教え込んで、その稼ぎの何割かをこっちに回すとか? 馬鹿馬鹿しい、アンタは私が金程度じゃ動かないことは知ってるわよね。」


最後の言葉を聞くと同時、キショウはがっくりと項垂れた。

それもそうだ。自分の考えていることをすべて看破されたのだ。自信を持っていられる方がおかしい──いや、論点はそこじゃない!

なんでコイツは一ヶ月もの時間を稼げると知っていてそれを俺に提案しなかったんだ!

確かに顔も知らない奴に金を食われるのは不快だし、俺は援助を受ける側だからとやかくは言えない。

だが、それでも知らせる程度のことはしてくれても良かったはずだ。

何故、と問いかけようとした俺だが、彼女は俺を制してさらに質問を投げかけた。


「アンタまさか、まだあの事を気にしてんじゃないでしょうね?」


キショウの肩が、さっきまでと違い。傍から見ても分かるほど大きく震えた。

あの事? 一体何の話なんだ?


「何度も言ったけど、アレはアンタじゃなくて私自身のミス。いつまでも自分のせいだって思われるのが一番癪なのよね。いい加減納得しなさいよ。」

「あのー・・・すいません、アレってなんですk」

「部外者は黙ってなさい。」


はい。

・・・・・・。

場に異様な空気が漂う。

一刻も早くこの空気を変えねば、とは思うが、しかし具体的な策は思い浮かばない。

どうしたものか、と考え始めた矢先、彼女がその沈黙を破った。


「まあ、いいわ。アレについてはまた別の機会に話しましょう。さて、カイト君についてだけど・・・しばらくの間面倒を見ればいいんでしょ?」

「・・・ああ。」


相変わらず冷静な声に、掠れた返事。

二人の過去に何があったのかは分からないが、とりあえず一難は去ったことを、さっきよりはマシになった空気が告げた。

頭の中に『一難去ってまた一難!』とKYな部分の俺の分身が叫ぶ。シリアスな空気が台無しだ・・・。


「・・・しょうがないわね。それについては認めましょう。ついでに、彼に幾つか手解きもしておくわ。いつまでも家にいられても困るしね。わかったらとっとと行きなさい。どうせ手持ちも殆ど無いんでしょ?」


ガタッ、と席を立って奥へ消えていくエリナ。

カイト君もついてきなさい! と奥から声が聞こえ、慌てて俺も後を追う。

本当に済まなかった・・・と呟くキショウを残して、俺は廊下を進む足を早めた。



「まず最初に言っておくわ。私はあなたを使用人として雇う。その給料はここで衣食住と生活の基礎を叩き込むということで支払う。それ以外には何の関係も持たない。いいわね?」


ドアの空いた部屋に入ると、エリナは突然に告げてきた。

こくり、と頷いて返事すると、次にエリナはこの世界での基礎──SDVOでのルール(暗黙問わず)やステータス画面表示、アイテム売買などの基礎的なことを教えてくれた。

言われた通りに、先ずステ画面を開く。指先で円を描くようにして、最後にその円の中央を指すように指でつつく。

ピロン、などという一般的な効果音と共に、それは出てきた。


──────────────────


カイト LV1  0ソン


筋力 1457

敏捷力 1879

HP 17963

耐久力 1301


状態異常 無し


──────────────────



「はあ・・・やっぱりあなたもなのね。」


俺には数値がどのくらいの基準で、何がどうなのかサッパリわからなかったが、彼女の反応を見る限りは普通な値ではないらしい。

これから先の生活でステータスの基準を聞いておくのも悪くない、と思い、どうなっているのかを聞いてみた。


「俺のステは具体的にはどうなっているんですか?」


彼女は苦い顔をしたあと、しかし直ぐに取り繕って大体の数値的基準を教えてくれた。


「大抵の場合、個人にもよるけどレベル1のド素人プレーヤーは、体力は100程度で、他のステは20か30程度なのよ。中級者・・・大体レベル50か60あたりにもなってくるとそこそこ強くはなるのだけれど・・・。」

「けれど?」


一瞬の間があく。

何なんだろうか。


「・・・普通は、その数値に達するにはレベル200は最低でも超えてないと無理だわ。」

「・・・はい?」

「ついでに言うと、現状、レベル200を超えるようなプレーヤーは両手の指で数える程しかいないし。一応浮浪者独特のステ上昇ってのがあるんだけどね、あなたのそれはまさに桁違いになってるわ。正直、見てもらったほうが早いわね。」


言うが早いが、彼女は彼女自身のステ画面を開き、その無機質な字の羅列を見せてきた。


──────────────────


エリナ LV163  1075683ソン


筋力 1680

敏捷力 2014

HP 19225

耐久力 1707


状態異常 無し


──────────────────



「あなたのステは、浮浪者独自のステ上昇さえも遥かに上回ってる。レベル差が私とこれだけあるのに、あなたは私より少し劣った程度の力を持ってる。・・・これがどういうことかわかる?」


そんなことを言われてもわかるはずがない。

なにせ、俺はこのゲームを一度だってプレーしたことはないのだ。確かに今は現在進行形で遊んでいる(?)という形にはなっているが、しかし数時間程度で難解なことがわかるわけではない。

素直に首を振ると、彼女はバッサリと言ってきた。


「あなたがこのまま成長すると、必ずやトッププレーヤーとなる日が来るわ。それも、誰も手が届かないほどにね。そしてそれと同時に、運営の監視の目も暇なくあなたにまとわり続けるでしょう。更には・・・。」

「更には?」


今までの中で一番不穏な空気が流れる。

それは先程のキショウとの雰囲気とは、まるで桁外れで、これから先の『何か』を表しているように思えた。

そして、沈黙が破れる。


「仮説の話だけど、もし、この事態が運営の意図的なものならば・・・あなたが元の世界に帰る方法は殆ど無くなるわね。」


その発言は、この世界に来てから一番俺を震撼させたものであった。




ピチョン、という雨垂れの音で俺は目が覚めた。

周りを見回すと、そこは何かの森の中のようだった。


「・・・?」


わけもわからず辺りを見回していると、いつの間にか自分の手の中に紙片があることに気づく。

なになに・・・?


【とりあえずステ的に死ぬこともないと思うので、中級者ダンジョンに放り込みました。後は実践あるのみ! なんとかして自力で脱出して下さい。


エリナ】


「せ・・・・・性格悪いぃぃぃぃぃぃ!!」


森に、俺の絶叫が木霊した。


しばしの絶叫が響いた後、少し落ち着いた俺は帰還へ向けて作戦を練り始める。

そうだ、先程、元の世界への突破口が無いかもしれない、と言われてからショックのあまりに気絶してしまったのだ。

それをいいことに彼女は俺をこんなところへ置き去りにした、ということか。

ふむ・・・。


あれ? よくよく考えたら、俺、地名とかわからなくね?

いくら人に聞こうが地名がわからなければ意味はない。

・・・なんてこったい。

辺りを見回しても、そこにあるのはひたすら木、木、木。

人は愚か、動物の気配さえ欠片も無い。

・・・まあ、この世界での動物と言えばモンスターなんだろうが。

そして俺の手元にはエリナからの手紙と初心者用の片手剣。装備や回復ポーションと言ったものの痕跡は見当たらない。

・・・いや、一つだけあった。キショウから貰った最高級ポーションだ。こいつはHP状態異常全回復というスグレモノだが、しかしたった一つでは心許なさ過ぎる。

はてさて、ここからどうしたものか・・・。

暫く考え込んだものの答えは出なかったので、とりあえず森を進んでみることにした。

先程まで降っていた雨は止み、少しずつ雲間から日の光が降ってくる。

湿気を含んだ風が、優しく頬を撫でていった。

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