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1話 放り出された世界の先に

投稿するの忘れてました・・・。

2日遅れて申し訳ない!

どれくらい時間が経っただろうか。

眠たさを訴える頭を揺さぶり起こして視界を開く。

どういったわけか、そこには鬱蒼と生い茂る木々があった。

はて、森にきたような記憶がないが・・・。

しばらく辺りを見回してみると、どこからか声を掛けられた。


「ん、やっと起きたか。遅いぜ全く・・・。おかげでクエストに行きそびれちまったよ。」


声の方向に振り向いてみれば、そこには、これでもかと言わんばかりに美化された、完全な美少年がいた。

──腰に長刀をぶら下げて。


「・・・おい、それ。」


軽く視線をやると、男は気づいたようにそれを持ち上げ、


「おお! わかるか!? この【マサムネ】は超レアでなぁ・・・。ダチの鍛冶屋に高い金払ってやっと作ってもらえたんだ。素材、人件費、その他諸々で色々犠牲にしたが、やっぱこれ買って正解だった・・・。」

「いや、そうじゃなくて!」


いきなり中身を抜いて素振りを始める男に向かって、冷や汗をかきながらも俺は叫んだ。


「なんでそんな物騒なモン持ち歩いてんだ!? 仮にも人に当たったら危ないだろうが!」


必死の俺の問いかけに対して、男の反応は単純だった。

肩をすくめて、何を言ってるんだコイツは、とでもいうふうに手を肩の位置まで持ち上げる。

その全ての行動に怒りを覚えたが、それを押し殺して男の言葉を待つ。


「・・・全く。ここにも銃社会推進野郎がいたか。」


呟くように言ったその一言は、音量こそ小さけど、俺の耳にははっきり届いた。


「銃社会!? そんな剣よりも危ないもんを推進するわけねえだろ!!」

「だったらなんだってんだ!? お前は実力と金が物を言うこの【SDVO】の世界で、拳一つで戦えって言うのか!?」


激しい剣幕で返す男に激しい怒りを覚えたが、俺はそれよりも気になることがあった。


「【SDVO】・・・だと・・・?」

「ああ。お前、まさかそれを知らずにここに来たわけじゃないだろう? なにせ、本体にカセット、それ専用のコードがついて、やっとプレイできる代物だからな。こいつには俺の資産の殆どを注ぎ込んだぜ・・・。」


何かブツブツ言う男に対して、俺はそんなことなど頭にも入らなかった。

──【SDVO】。知らないわけがない。今までのコントローラーで動かすようなゲームとは根本的に違い、体ではなく意識で動かすオンラインRPGだ。

この完全だと噂された次世代機は、20代の少し金に余裕のある人なら、男に限らず女性まで結構な量の人がハマっているという、世界で最も売れているというオンラインRPGらしい。

若者に対しては飛ぶように売れる一方で、金のない子供や兄弟持ちの家庭からは、『値段が高い』とか、『子供が勉強しなくなりそう』とかいう理由であまり人気のない商品だった。

無論、俺だって欲しくないわけないのだが、それをプレイするためには本体で5万、カセットは・・・モノにもよるが大体3万切る程度、更にそれと家庭用コンセントを繋ぐための専用のアダプタなどで、完全にプレイするためには少なくとも10万はかかると言われているため、買うという選択肢は愚か、生で見ることはないだろうなとまで思っていた。

──話は戻るが、問題は、『何故俺がその【SDVO】の世界に入り込んだか』ということだ。

当然、ゲームの中に入った記憶どころか、入る手段さえ思い浮かばない。

そんなものがあるとすれば、世の廃人どもは喜々としてその中へ入っていくだろう。

しかしだとすれば、なにが原因でこんな世界に入り込んでしまったのか。全く検討もつかない。

手を顎に当てて考え込む俺を不審に思ったのか、男はこんな事を言い出した。


「──お前まさか、最近有名になってる【浮浪者】の一人か?」

「【浮浪者】?」


まさか一般に聞く【浮浪者】の事ではないだろう。

かといってそれ以外の意味を、俺が知るわけもない。

多少勘には触るが、今俺の選択肢はコイツに頼ることの一択しかない。

本当に不本意だが。


「その【浮浪者】ってのは、どういう意味なんだ?」

「あー・・・そうか、お前、ここが初めてなのか。【浮浪者】ってのは、最近この世界で有名になりつつあるある一定のプレイヤー集団・・・といっても、ほんの僅かにいる特殊なプレイヤー達のことだ。」

「ある一定の?」

「ああ。集団とは言っても、全員が全員集まって行動しているわけじゃない。これは噂に聞いた話だが、どうにもこの世界に『紛れ込む』奴がいるらしい。丁度お前のような、何も知らずにやってきた、って顔でな。」

「???」


なんだ、余計に話がわからなくなってきた。

【浮浪者】とは何なのか。

『紛れ込む』とは何なのか。

未だボンヤリする頭をフル回転させて考えるが、どうにも考えが纏まらない。

本当に、本当に癪だが、詳しく説明してもらって話を整理する必要がありそうだ。


「どうにもそいつらが言うには、『ログアウトができない』だの、『いきなりこの世界に入った』だの、トボけたを主張しているらしい。まあ殆どのプレイヤーが、目立ちたがりが勝手なこと抜かしてるんだろう・・・そう思っている。今現時点でも、俺もその一人なんだが・・・。」

「・・・なるほどね。要するに、お前も俺がその『目立ちたがり』の一人だと思っているんだな。」

「端的に言ってしまえば、そうだな。」


つまりこの状況は、俺以外の連中にも極少数ではあるが、複数人いるらしい。

ならばそいつらに話を聞くことに越したことはない・・・と言いたいところだが、どうもこの男の言うことを聞く限り、かなりその人数は少なそうだ。

何にしても、先ずは情報だ。


「・・・そうか。色々ありがとうな。じゃ、俺はこれから情報収集に行ってくる。」


そう言って背中を向けると、何やら背後からため息が聞こえてきた。


「・・・あのなぁ・・・ここから一番近い街まで、大体5,6キロあるぞ? それに近くには幾つかのダンジョンもある。とてもじゃないが・・・高級どころか、初期装備さえもないお前が突破できるとは思えないんだが。」

「・・・・・。」


ピタッ、と止まった俺に対して、更に男は言葉を投げかけてくる。


「ついでに言うと、お前が向かっているのは街とは反対側で、誰も近づけないような高レベルダンジョンが腐る程あるエリアだ。余程の実力者・・・でもソロで踏破することは、まずできないぞ?」


男の言葉が、大きい氷柱のように俺の心をグサグサ刺してくる。

なんだ、何故そこまで俺のプライドを踏みにじろうとする。


「さらに言わせてもらうなら・・・お前のあと2メートル前方に、拘束タイプの罠が張ってあるぞ。初期のスキルでも見破れる程度の罠を見破れたいところを見ると、お前相当なしょしん──」

「よおおおおし! そんなに俺に構ってくれるなら、街まで案内してもらおうかな! なにせこっちは『ド』素人なんでね!!」


他人に言われる前に自分で言う。

避けられない心の傷を負うときに、その傷を少しでも軽くするための、いわば自己保身だ。

このスキル、社会を生きていく上でとても重要だ。

例えば、いきなりゲームの世界に放り込まれた時に見知らぬ人から『ド素人』などと言われかけた時には特に。


「・・・・・。」


若干引き気味の男の背中を押し(ついでに盾にし)ながら、俺達は街がある・・・という方向へ向かって歩みを進め始めた。







キショウ。

それが俺を助けて(?)くれた男の名前だった。

こちらも名乗ろうとしたが、そもそも正式にこのゲームへアクセスしたわけではないので、ユーザーネームなど当然設定している訳もなく。

仕方なく別サイトで使っている自分の名前を一部だけ切り取った『カイト』だと名乗っておいく。

それからしばらくこの世界の概念について、キショウから色々教えてもらった。

マップ上では街に行くためには結構高難易度ダンジョンに潜ったりしなければならないのだが、どこぞでやったゲームなどとは違いリアルを求めすぎた結果なのか、入口も至って普通な森に見えた。

勿論、高難易度とある以上それなりのモンスターが出てきてはいるのだが、全てキショウが追い払っている・・・というより、複数モンスターに対しても現実ではありえないほどのスピードを出して一方的にボコっている。

どうやら彼は、相当なゲーマーのようだ。

時々すれ違うパーティの殆どは彼を知っているようだったし、その彼を見る目に若干の羨望が見られたあたりからも、彼はだいぶ有名且つ高レベルプレーヤーのようだった。


「・・・にしても、【浮浪者】なんて存在が、まさか本当にいるとはなぁ・・・?」


チラチラとこちらを見てくる彼の視線に不快感を抱かないわけでもないが、その程度でいちいち不満を言っていたようでは世の中を渡ってはいけない。

そう無理に納得しつつも、俺は頭の半分で別のことを考えていた。

そう、何故こうなったかだ。

先程はキショウの登場であやふやになっていたが、そもそも俺は何故ここに居るのか。

前代未聞だ。人がゲームの中に飛ばされるなどという事態は。

そもそも、俺は生きているのか、死んでいるのか。それすらもわからなかった。

生きているんだからここにいるんだろうが、などという意見が脳内俺会議で飛び交っているのだが、否、まずゲームの中にいるという時点で前提がぶっ飛んでいる。生きているか死んでいるかなどの問題は、些細ではないが、どちらの選択肢も度外視はできない。

わんやかんやと五月蝿くなる脳内俺会議なのだが、その考えはいとも容易く中断されてしまう。

キショウの、これからの俺の行動を決めることになるであろうかなり重要な情報によって。



「そういえばカイト、お前これからどうするんだ? 自主的にログアウトできない以上はここに残るしか無いんだろ? この辺りは宿代も高いし、とても超初心者なお前には暮らせないと思うんだが・・・。」

「んー・・・とりあえず寝泊りさえできればどこでもいいから、一番安いとこ教えてくれる?」

「・・・そんなことだろうと思ったよ。」


手を肩の位置まで持ち上げて、やれやれ、といった体でため息をつくキショウ。

コイツの動作はいちいち頭にくるから不思議だ。


「大体なぁ、一番安いっつったって稼ぎのないお前が泊まれるわけないだろ?」

「そこはキショウが払うということで、」

「俺は今一文無しだし、この街に銀行はない。」

「じゃあ今キショウが持ってる装備を売って、」

「これは超レアものだし売れん。」

「今から稼げばなんとか、」

「俺一人分ならなんとかいけるな。」

「・・・。」


なんだ、この絶望感は。

余りにも酷い嫌がらせだ。

そしてコイツはなんて役に立たないんだ。

頭の中に浮かんでくるカラスに食べられる俺のビジョンを振り払いながら打開策を考える。

金、金、金・・・。


「そうだ、盗めb」

「ここの金はデジタル化されてるから取れない。」


いきなり打ちのめされた。

しかしこれだけ落ち着いて返してくるということは、何か他に方法があるんだろうか。


「・・・じゃあ他に策は?」

「ないな。お前はここで野垂れ死ね。」


どうやら神は俺を徹底的に見放したらしい。あまりにも外道な神だ。

暫く途方に暮れていると、ポン、と手を打ってキショウが頷いた。

かと思えば、直ぐに顔をしかめた。コイツは何故ここで顔芸の練習をしているのだろうか。


「・・・カイト、お前、直ぐに暴力を振るってくる奴と一緒にいられるか?」

「多分大丈夫・・・だと思う。」


キショウの顔が歪むのが見えたので、土壇場で後半のセリフを付け足した。

一応これで後後の保身にはなるだろう。何があるかは知らないが。


「・・・本当に危ないやつなんだが、本当に大丈夫だな? 筋力パラメータ全開でノーモーションで殴ってくるような奴なんだが、マジで大丈夫なんだな?」


なんだ、キショウがこれほどに恐れる相手って・・・。

背中に悪寒が走るが、しかし他の方法もないので仕方がない。

とりあえず頷いておくと、キショウは恐る恐るこんなものを渡してきた。


【最高級ポーション】

:HPが残っている状態ならば、状態異常とHPを全回復。


なんでこんなに不安要素ばかり募っていくんだ。


「本当に危険だから、できるだけアイツの攻撃は避けるようにしろよ。俺でも下手したら一撃死だ。」

「ええ!? それ先に言えよ! 俺だったら確一で殺られんじゃねーか!!」


わーわー喚く俺だったが、レベルの差で筋力差が開いているキショウに勝てるわけも無く、そのままずるずると引き摺られていった。




町外れにあるその家はとても質素だが、しかし高級感のあふれる家でもあった。

本当にこんな家に暴力野郎がいるのか・・・?

いやいや、騙されてはいけない。

ガキの頃に習ったではないか、人の見た目に騙されてはいけませんと。

実際は人ではなく家の外観なのだが、そんなのは知ったこっちゃない。

いつになく警戒する俺を確認した後、キショウがインターホンを押す。

しかしこの時、俺は自分の認識が甘かったことを痛感した。

インターホンが鳴ってから丁度5秒後。

いきなりキショウがふっとばされた。

10メートルも後方に。

そして元キショウが立っていた場所の10メートル後ろには、大きな湖があった。

盛大な水飛沫を上げて沈んでいくキショウを見ることしかできない俺に話しかけたのは、筋骨隆々な大男でもなく、イケメンの美男子でもなく、意外にもかなり目鼻立ちの綺麗な女性。

そして彼女こそ、今後の俺の運命を大幅に変える歯車だったのだ。


「あら、見ない顔だと思ったら・・・あなた【浮浪者】じゃないの。」

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