八節
機獣は自然発生したものではない。
そのセリフを聞いた俺は愕然とした。
自然発生したものではない、つまるところ機獣は人工的に発生しているという事になる。
「機獣を……あの機獣を人為的に発生させられる……ということか?」
俺はあの忌々しい機獣が人為的に発生しているという事がどうしても信じられなかった。
「そういうことになるね、でも今回僕たちが遭遇した機獣は人為的に作られた個体じゃないんだ
浅間は俺の表情を予想通りというような笑みを込めた顔で話す。
「どういうことだ!?」
俺はすぐさま聞き返す。
まあ、落ち着いてと身振り手振りしながら話し出す。
「まず、先刻蓮君たちが遭遇したあの機獣についてだけどあそこまで大きいタイプはレベルⅤだね」
「レベルⅤ?」
あまりにもあっさりとレベルⅤなどと言われてしまったので聞き返さざるを得ない。
「うん、簡単にいうと機獣はレベルⅠからレベルⅤまで段階分けされてるんだ」
浅間は話を続ける。
「数字が大きいほど危険度が増して、特にレベルⅤは僕たちの手にも負えない程強い」
俺はよくそんなやつに遭遇して命があったものだと思いつつ話の続きに耳を傾ける。
「そして、機獣の動力の元は"アグリゲーター"というエネルギーでまかなっている」
「アグリゲーター?」
俺は聞きなれない言葉の意味を想像できず、聞き返した。
「まあ、言うなれば次元エネルギーだね」
俺は浅間のライトブルーの瞳の奥から何か特別なものを感じる気がしてならなかった。
先の戦いでも特別な力を使い、俺達を救ってくれた。その点については感謝しているが、どうも信用できない。
などと思いつつ、俺は引き続き話を聞く。
「それで、機獣はアグリゲーターを弱点である紅点から取り入れる事によって機動力、銃弾などを補っているんだ」
俺は驚愕のしつつも、なぜ紅点を潰せば機獣が動力を失うかという謎が解けたことで俺の中に多少の安堵感が生まれる。
「だから、紅点を撃ち抜けば奴らは動力を失ったのか」
浅間は頷きながら話を続ける。
「そして俺達にとって最大の壁と言えるのは、あの機獣さえ操り、この世界を滅ぼそうとしている人間……クロウリー……」
クロウリー……あの忌々しい機獣を操り、世界を破滅へと追い込もうとしている最悪の人間。
「さらにクロウリーは恐るべき銃の精密性を持っている」
精密性……俺が今まで機獣相手にハンドガン一丁でやってこれたのは仲間のサポートもあったが弱点である紅点に銃弾を命中させてきたからだ。
そう、俺は精密性に特化しているただそれだけのことだ。
ならばもしクロウリーと決戦になった場合、どちらの精密性が上かが勝敗を分けるだろう。
「なあ浅間、クロウリーは機獣をなんでレベル分けして作るんだ?最初から最強の機獣を作ればいいだろ」
「クロウリーもまだ完璧ではないんだよ、機獣を作るのはまだ不完全らしくレベルⅤは作られたというよりレベルⅣがなんらかの理由で融合したものなんだ」
俺は機獣同士が融合などという微塵たりとも想像しなかったことを告げられ、脳の整理に戸惑いながらも再び耳を傾ける。
「機獣の本来の形は普通の動物なんだけど、生きている動物にアグリゲーターを植え付ける事で機獣が完成するんだ」
「クロウリーと実際に戦った事があるのか?」
浅間は視線を少し下げながら口を開く。
「戦った……というより逃げた……のほうが正しいかな?」
浅間は苦笑しながら話を続ける。
「クロウリーは僕とてかなう相手じゃなかったよ、それにまだ何か力を隠しているような感じだったし……」
うつむき加減な浅間を見て俺は背筋が凍えるような気がした。
浅間は先刻遭遇した機獣相手に傷一つ負わずに逃走に成功した。だが、その浅間でさえクロウリー相手では逃げるのが精一杯だったらしい。
「そんなに強いのか……」
果たして俺はそんな相手に勝つことが出来るのか……などと考えてしまう。
「これは不確かな情報なんだけど……ここ以外にも別の世界があるという噂があるんだ」
「別の……世界?」
俺は脳裏に何かを感じた。何か重要なことを忘れているような、そんな気がした。
「どうかしたかい?」
浅間が俺の顔を心配そうに覗き込む。
「いや、すまない。それで、その別の世界ってのはどういうことなんだ?」
俺は無理やり話題を逸らす。
「うん、レベルⅤの機獣は異次元から現れている。つまり別空間へ行く事が出来るという訳だ」
「異次元が存在するって事は別の世界もあるかもしれないってことか……」
「その通り。まああくまで推測にすぎないけどね」
俺は今まで別世界の存在を意識した事がなかった。俺の失くした記憶が別の世界のものだったら……。
可能性がないわけではない。
「まあ、今はクロウリーを倒すことを考えることが先決だな」
「そうだね、とりあえずはやつの居場所を突き止めなきゃだね」