六節
「二人共大丈夫か?」
あまりにも突然の出来事だったので俺の脳の処理が追いついていない。
幸い、俺たちは掠り傷程度で済んだ様である。けれど辺りを見回しても生存者は数えられる程度だった。
「嘘でしょ……?」
掠れた声で結衣が呟く。
上空の次元の狭間からは機獣が出てきた……が、今までの奴らと比べ、大きさが違いすぎる。
デカイ……あらゆる要素を差し置いて、ただひたすらにデカイ。
まだ体の一部分しか見えていないというのに、それだけで大型飛行機程の大きさがあった。
「こいつ、なんて大きさだよ……」
もはや動物が変化したとは思えない大きさと形状である。
見えて来たその頭部には一本の角。胴体の左右にはが翼が三枚ずつ、総じて六枚あり、無骨な背からは鋭い骨が何本も出ている。
機獣の姿を生き物で例えるならこの世に存在するはずのないドラゴンが妥当だろう。
言葉を失う俺たち二人に対して、鈴音は既に構えていた。
その銃口は機獣の右翼を撃ち抜かんと既に照準を合わせられており、間も無く発射。直撃した敵の右翼からは煙が上がる。
「やったか!?」
俺は思わず声を大にして叫んだ。
――けれどもその数秒後、三人は驚愕する事となる。
右翼にあるはずの風穴は、しかし何処にも見当たることは無かった。それどころか傷一つ付いていない。これは一体どうしたことか。
「嘘……でしょ?」
結衣は機獣を見ながら声を漏らした。
鈴音はというと、目の前の事象が信じられなかったのだろう、右翼に次々と銃弾を浴びせている。
思えば機獣は音速を超えた金属の塊をその身に受けても悲鳴をあげていなかった。眼前の化け物は矢継ぎ早に、そう雨の如く襲いかかる弾丸を浴びてもビクともしない。
恐らく本人もわかっている、いくら打ち続けても奴には効かないということを……。
「鈴音っ!!もういい、俺達じゃ勝てないんだ!!」
俺は鈴音の肩を力いっぱい握りしめて叫んだ。
鈴音の肩からは力が抜け、スナイパーライフルを地面に落とし、膝から崩れ落ちた。
鈴音が崩れ落ちると同時に機獣がうめき声を上げ始めた。
「ヴヴヴ……」
機銃の開いた口内に、青白い光が発生し、増大してやがて収束する。
マズいっ!!鈴音と結衣は意識が朦朧としている故動けない。様々な打開策を考えていたその瞬間、機獣の口から放たれたエネルギー砲は雷鳴の如く街一帯に降り注いだ。
俺は終わりを悟った。グッと目を閉じ、静かに二人の元に歩み寄る。
その数秒後、暗闇が俺たちを包む。
「俺は……死んだのか?」
しばらくすると視界に光が差し込む。
俺の視界に入ってきたのは……「シールド!?」
俺のそばには鈴音と結衣が居る、本来ならこの三人のはず……。
だが、今俺の目の前に居る若い男は俺たちをシールドで包み込んでいる。
「ほら、そこの君!!早くそっちの彼女達抱えて逃げなさい!!」
俺は得体の知れない男の指示に従い、鈴音と結衣を抱え街の外へと走り出す。
機獣は俺たちに銃口を向け、またしても嵐の様な銃弾発射する。
しかし、俺たちを助けた男はそれらの銃弾をすべて弾き返す。
俺は無我夢中に走り続けた、途中小石に躓きそうになるが俺の脳にはとにかく機獣から逃げろという命令しか無い。
しばらく走り続け、街から離れると俺は一度二人を下ろす。
「はぁ……はぁ……あの機獣はなんなんだ?」
するとフッと目の前に先ほどの若い男が現れた。
「その質問は僕達のアジトで答えるよ」
男はやけに爽やかなイメージで白髪でほっそりとした体つきだ。そして目の色がスカイブルーの様な明るい色をしている。
「アジトだと?」
俺は驚愕した、俺達の様な機獣と戦っている人間が他にも居るという事になる。
「まあ、詳しい説明は後でゆっくりしようじゃないか。君達みたいな生存者は久しぶりだから、きっと僕の仲間も喜ぶと思うよ」
俺は鈴音の隠れ家はもう使えない事も考え男のアジトについていく事にした。