三節
俺たちは亜麻色の髪の少女の隠れ家に案内され一晩過ごした後、話を聞いた。
亜麻色の髪を持つ少女は俺たちにとって未知の事実を淡々と、そして矢継ぎ早に話していく。そう、俺たちの想像を遥かに超えた現実を。
内容としては、近頃機獣の弱点が一ヶ所ではなく複数になってきていることや、機獣の数が急激に増加して来ていることなど。そして何より俺たちを驚かせたのは、機獣はただの化け物ではなく、特異なウイルスに寄生された極一般的な動物たちだということだ。
「どう? 一通り話したけど少しは理解できた?」
そう言って、少女は話に区切りを付ける。
「あぁ……驚いたが見ちまったもんは信じるしかないしな」
そうなのだ。俺にとってはウイルス云々などどちらでも良いことであり、それより何より、あの様な怪物が存在しているということが問題。それの後付などあろうがなかろうが問題はなく、信じろと言われれば信じて差し支えない。……だがしかし、さっきの話には少し気になる部分があった。
「それより、あなた誰なの?」
結衣の発言には、少々の苛立ちが感じられる。人一倍強い警戒心から来ているのだろうか。
「申し遅れました、私は尾上鈴音といいます」
対して、鈴音は平静な態度で、ペコリと頭を下げる。その整った身形からは、清楚さが感じ取られた。
「俺は佐藤蓮だ、よろしく」
唯一知っている名前を述べて、手を差し出し握手。
「私は中村結衣」
俺に続いて結衣も手を差し出していた。それに鈴音はやはり落ち着いた様子で対応する。
さて……単刀直入に訊いてしまおうか……。
「ところでさっきの話を聞いて一つ気になったことがあるんだが……。そのウイルスとやらは、もしや俺たち人間にも寄生するのか?」
俺の発言に呼応して、辺りの空気が張り詰めた。ああ、何故だろうか嫌な予感がする。
「このウイルスは空気感染などはしません。ですが…………」
そこまで言って、鈴音は黙り込んでしまう。そして場を支配したのは沈黙。その静けさが、俺の問に対する答えであることは間違いがなかった。
「……ですが?」
けれども、待ちきれなくなった結衣が問う。鈴音の口から、確とした言葉が欲しいのだろう。いや、救いを望んだだけかもしれない……。
「……機獣の中には、そのウイルスを人間に直接植え付けることが可能な者もいます」
「なん……だと!?」
答えは分かっていたが、俺は驚愕した。横では結衣がポカンと口を開けている。
「植え付けられた奴らはどうなる……?」
恐る恐る言の葉を紡ぐ。訊きたくは無いが、聞かねばならない。知らずに後悔するよりも、知って後悔した方がマシだから。
「そうなってしまうと、救う方法は今の所ありません……。寄生された者は機獣の様な姿となり、人としての自我は消え失せます」
「ッ!? 本当に……か?」
「はい、これは事実です……」
鈴音は真剣な、そして今にも泣き崩れそうな眼差しでこちらを見、告げた。
何といえば良いだろうか、言葉が見つからない。しかし、どうしてこの少女は、こんなにも機獣についての知識を抱えているのだろうか?
俺がそれについても訊くかどうかを迷っていると、結衣が代わりに問うていた。
「鈴音ちゃん、なんで機獣についてこんな詳しいの……?」
「はい。話すと少し長くなりますがよろしいですか?」
俺たち二人は、頷いて答えとする。
「では話します。…………私も昔はパートナーがいました」
少女は語りを始め、小さな部屋には、これもまた小さき沈黙が走った。