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騒擾閑化のティラトーレ  作者: いくら
人類機獣化計画
19/20

十九節

 浅間……。

俺の目の前に突如として現れたのは機獣と化した浅間だった。

身体の各部位が機械化し、もうあのどこか優しさを帯びていた蒼い瞳は感情など皆無の死んだ瞳に変わり果てている。

「成功だ」

目を見開き、口端を引きつり不気味な笑みを浮かべる拓哉。

「成功……だと!?」

俺は拓哉の言っている事が理解出来なかった。

「この世界に唯一存在する能力者、その存在が俺の計画に最も邪魔な存在だった。何故この世界に能力者が存在するのかは不明だったがそれを俺のコマにしたら、計画は確実に成し遂げられる」

確かに浅間はこの世界に存在する唯一の能力者だろう。それに本人から素性を聞いた事は一度足りとも無かった。

「それにこいつはかなりのお人好しだ。こいつを直接叩くのは厳しいが、周りの雑魚を狙えば見方を守りに入る。そうなればこいつを叩くのも容易い事だ」

尚も笑みを崩さず、話を続ける。

「こいつを支配できれば蓮、お前など雑魚同然だ」

俺は挑発気味に言う。

「言ってくれるじゃねぇか、ついさっきまで俺に殺されかけてただろ?」

だがこの状況は今までに無く危機敵状況だ。拓哉の相手ですら限界なのに浅間も相手するとなると……。

その時、浅間の瞳が紅から深紅の輝きを放つ。戦闘態勢に入ったと見て間違えないだろう。

だが俺には応戦する気力も体力も微塵足りとも残っていない。

残弾等ありはしない愛銃、ハルファスを浅間の眉間に照準する。

「哀れだな……」

今まで幾つもの困難を乗り越えてきたが、それもここまでのようだ。

浅間が俺の目の前で斥力フィールド同様の性質と見られる球状の物質を生成する。

銃弾などいとも簡単に弾く塊をぶつけるつもりだろう。

俺はただ浅間にハルファスを照準し続ける事しか出来ない。

拓哉はその球を手のひらで浮遊させ、こちらに向かって走ってくる。

その時、浅間の瞳の奥で青より深い蒼が煌めいた。

刹那、ハルファスが浅間の瞳と共鳴したかの如く、幾何学的な模様が浮かび上がる。

「なん……だ、これは?」

ハルファスに浮かび上がった幾何学的模様が蒼く強い光を放ち、辺りを照らす。

拓也も同様を隠しきれていないようだ。

「何が、何が起きている!?何をしたッ蓮!!」

光が俺の視界いっぱいを埋め尽くし、ゆっくりと薄れていく。

すると、俺の目の前で驚愕の事実が起きた。

本来ならとっくに俺の身体を粉々にしているはずの浅間が目の前で倒れている。

「ガガ……」

やがて、動力を失い紅点が消える。

「貴様ぁ、何をしたぁ!!」

拓哉が狂気を剥き出しにし、叫ぶ。

俺自身頭が追いついていないのだ、説明できるはずがない。

さらにハルファスは輝きを失わず、先程浅間が生成した物と同じ物が銃口に生成される。

「これは……俺に、撃てと……?」

イエスと言わんばかりにトリガーに浮かび上がる幾何学的模様が発光する。

グリップを両手で握りしめ、拓也を見つめる。

拓哉は何かを叫んでいるが、まるで言葉になっていない。

「やめ、ろ……やめろ…………やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

引き金を引くと同時に蒼い球は拓也の腹部を貫いた。

「ゴフッ……」

鈍い音と共に拓哉が吐血する。断末魔の叫びも聞こえない。

「きさ、ま……グフッ」

拓也の腹部に直径五センチ程の穴が空いている。

しばし沈黙が走り、拓哉が口を開く。

「俺は……俺は負けた、のか……?」

ようやく落ち着いてきたようだ。拓哉は未だに自らの敗北を認めていない。

「なぜだ……俺の、計画は……カハッ……完璧だったはず……だ……」

吐血しつつも俺を睨む拓哉。

「お前の敗因はお前自身が気づいているはずだ」

拓也の瞳をじっと見つめ返す。

「なん……だと!?」

「お前は全てを"一人"でやろうとした。それこそが決定的な敗因だ」

すると、拓也の表情に激しい怒りが見えた。

「お前は……お前はこの醜い人間共のどこが信頼できるんだッ!!自分の事しか考えられないクズ共のどこが信頼できるッ!!」

血を吐きながらも叫び続ける拓也の顔には困惑も見える。

「確かに人は醜い……。どうしようもなく醜く、自らの事しか考えない……。けどなッ!!人は変われるんだよッ!!機械とは違って変わることが出来るんだよ!!」

拓也が眼を見開く。

「結衣も、鈴音も、浅間も一度は絶望した。だがな、希望は捨てていなかった!絶望の淵に居ても尚、希望を、可能性をを捨てなかった!それが"人間"だッ!!」

言葉を詰まらせる拓哉。

「どんなに汚い人間でも、いつかは解り合える……その可能性を秘めてるんだよ」

「…………クソッ」

拓也の表情から怒りが消え、何かを決意した眼に変わる。

「お前は……前からおかしな奴だな……」

拓也は言いながら立ち上がろうとする。

「な!?無理に立つな!!」

「お前に……指図、される……グフッ……筋合いなんか、ねえよ……」

雪面は既に多量の鮮血で染まりきっている。本来なら動ける状態ではない。

「蓮……お前が……この、醜い連鎖を……止めて……みせろ……」

「……何を?」

次の瞬間、拓哉は自らの心臓を銃弾で撃ちぬいた。

「拓……哉?おい……おいッ!!」

その場に倒れ、動かなくなる。

辺りを見渡すと数々の機獣が動力を失い、崩れ落ちている。

「どういう、ことだ?」

帰ってくる返事もなく、ただひたすらに機獣達が崩れ落ちていくのを見てるだけだった。

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