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騒擾閑化のティラトーレ  作者: いくら
人類機獣化計画
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十七節

 ──パァン!!

殺られた…………俺は死んだのか……。

じゃあ今ある感覚は……なんだ?足が痛む、音がする……銃声!?

瞼を上げるとそこには見覚えのあるフィールドが俺を包んでいる。

「これは……?」

「危なかったね蓮くん!」

「しっかりしてよねー」

「ご無事ですか?」

浅間、結衣、鈴音……。

三人に加え、他にも複数見方がいる。

戦力こそ敵に劣るものの、諦めていた俺に希望という名の光が差し込んだ。

「お前ら……」

うれしいのはやまやまだが増援に感動している場合などではない。

結衣が刀で狼を一刀両断、直後動力を失い地面に崩れ落ちる。

さらに鈴音が鷹を一撃で仕留め、その場に空薬莢が散る。

狼と同様に動力を失い自由落下を始める。

銃弾を弾いていた浅間がフィールドを解除、人型に向かって走りだす。

人型は銃口をこちらに向けるが浅間は既に消えていた。直後、人型の背後に浅間が現れる。

熱源反応を感知した人型は後方に対処しようとするも浅間のた、だ、の、蹴、り、で粉々にされた。

よく見ると足には斥力フィールド同様ブルーの膜が覆われている。

仲間とはここまで頼もしい存在なのかと改めて実感する。

「こんな使い方もできたのか」

「フィールドの応用だよ」

こちらを一瞥し、また奴等へと向き直す。

「増援か……ならば俺もそれ相応の対処をさせてもらう」

再び拓哉の合図と共に機獣が何処からともなく出現する。

先ほどのタイプに加え、目視だけでは判断できない機獣もいる。

片腕がサバイバルナイフ、もう片腕が銃口の形状の機獣や、四足歩行の重装甲に両肩にガトリングらしき銃口が二つ。

敵の総数はざっと百前後であろう。それに対してこちらは二桁にも満たない。

圧倒的に不利である。

「俺はお前らの相手をするほど暇じゃない。もうすぐで"人類機獣化計画"が成し遂げられる、もうすぐで人類の醜い争いに終止符を打つことができる」

「ふざけるなッ!人間の争いを止める為に人間を機獣化させるなど許されるものかッ!!」

「いつまでも綺麗事をほざいてるといい……俺はやるぜ。もう誰にも止められない」

そう言うと拓哉はこの場を立ち去ろうと、異空間を作り出す。

「待てッ!!」

ハルファスを拓哉に照準し、発泡するも呆気なく機獣に無力化される。

「走れッ蓮君!今奴を逃せば取り返しの付かない事になるよ!」

「一瞬だけなら突破口は作れます。行ってください」

「準備オーケーだよ蓮」

俺は黙って頷き、そのまま地面を蹴った。左右から機獣が襲ってくるも、鈴音が見事に撃ち抜く。

正面を邪魔する四足歩行の機獣が幾つもの銃口をこちらに向け、フルバースト。

だがそれと同時に俺を包むフィールドが全て弾く。こんな応用も効くのかと感心しつつ前に走る。

さらに後方から追撃する機獣を結衣が一振りで薙ぎ払う。

「すまねぇ」

小声で呟くと拓哉が入った異空間へ飛び込む。段々と後方の光が小さくなっていく。

後ろは振り返るまいと懸命に走り続けた。

すると数分もしない内に出口が見えてくる。

敵が出口で待ち伏せをしている可能性も捨てきれないので、細心の注意を払って出る。

だが、待ちぶせはなく、拓けた光景が目の前に広がる。

やはり辺りは雪化粧に覆われ、殺風景である。

どこか前に見た未来の風景に似ている。あの光景との唯一の違いは目の前に拓哉が居るということだけだ。

「来ると思ったぜ」

不気味な笑みを浮かべる拓也。

「貴様……」

続く言葉はない。既に話し合いでの解決は無理だと分かっている。

「らしくないな、蓮」

尚も平然と話を続ける。だからといって気は抜けない。

「俺の計画は人類を救う唯一の方法だ」

当然の如く坦々と語る拓哉。

「だからといって現代(いま)を捨てていいはずがないッ!」

喉の奥が焼けるほどの声で叫ぶ。

「何かを救うには犠牲が必要だ」

「犠牲の上に存在する平和など表面上でしかないだろッ!」

段々とこらえきれない怒りが込み上げてくる。

「所詮平和などそのようなものだ」

「拓哉ァァァァァァァッ!」

俺は雪面を抉る程の力を足に込め、一気に跳躍し、距離を詰める。

右の拳を握りしめ、拓哉の顔面目掛けてありったけの力を解き放つ。

いとも簡単に躱されるも、その勢いを利用して回し蹴りを放つ。

蹴りは拓哉の右腕に防がれる。

「クッ……」

その時、引き金に指をかける音。瞬時にバック転の要領で頭を反らせ、足で拓哉の手を狙う。

発泡──。

弾丸は俺の右頬を掠め、雪面を抉る。すぐさま後ろへジャンプし、距離を取る。

さらに右足のホルスターからハルファスを抜き、照準。

互いが互いの頭部を照準したまま静止している。その間は約5メートルといったところか。

ここで俺は一つの疑問を抱く。

あれ程の勢いをつけて放った蹴りを片腕だけで防いだ。仮に受け止めても片腕だけなら骨は折れるはずだ。

「まさか……」

「気づいたか?遅すぎるぜ」

言いつつ拓哉は自らの左腕の服をビリビリに破り始めた。

案の定、むき出しになったのは生身ではなく、鉄の腕……義手だ。

「自らを機獣と化したのか……」

唾をごくりと飲み込む。

「機械化はすげぇもんだよ。人間の体の耐久度などたかが知れてる。だが機械化は違う。筋力は生身の数十倍だ」

俺は照準を頭部から脚部へ変え、発泡。

──キンッ

甲高い音が響き、果たして拓哉は無傷だ。

「クッ……」

絶句する。自らの身を捨ててまで成すべき事なのか……。

「これで俺の全てを知った訳だから……本気でいくぜ!」

言い終わるか否か、拓哉雪面を抉り、消、え、た。

気がついた時には拓哉の拳が腹部を抉っていた。

「カハッ!?」

口から血液が迸る。慣性に従うがままに後方へ吹き飛ぶ。

ぶつかる物が無い程殺風景なので数十メートル吹き飛んで静止する。

目の前に落ちているハルファスを手に取り、再び照準。

拓哉は俺を嘲笑うかの如く、無防備に歩み寄ってくる。

「クソ……」

俺は狙いなど気にせず、無我夢中に引き金を引き続ける。

止むことのない金属音が鳴り響き、弾丸が弾かれ、拓哉の足元へ転がる。

だが全弾を弾いた訳ではない。数発避けている…………?

なぜ喰らっても無意味な弾を避ける……?まさか……。

すると、拓哉が目の前で歩みを止め、俺の襟元を掴み上げる。

「グッ……」

呼吸が出来ない。

「弱いな」

俺の眼を見ながら挑発するかの如く呟く。

だがこれは拓哉が勝利を確信した"隙"が生まれた他ならぬ証拠だ。

右手に握り続けているハルファスグリップを強く握り、トリガーに指をかける。

先の撃ち合いで拓哉は妙な動きをした。機械化した装甲は銃弾など通さない程に硬い。

故に回避は必要としないはずだ。ならば次に撃つ場所は……。

俺は拓哉の瞳から視線を外さないように、ゆっくりとハルファスの引き金を引いた。

ドッ──

鈍い音が鳴ると共に鮮血が迸る。

「グッ!?」

案の定、機械化は一部に過ぎなかった。全部位を機械化したら制御出来るはずがない。

拓哉は俺の襟元から手を離し、大きく後方に跳躍。

腹部を抑えつつ、俺を憎悪に満ちた眼差しで睨む。

「貴様ァ……」

ちょうどハルファスが弾切れ、すぐに予備弾倉に取り替える。

確実にダメージは入っている。俺も数発喰らって既にギリギリの状態だ。

互いに消耗戦は不可能であろう。ということは次手を制した者が勝つ。

それは拓哉も理解しているはずだ。それを理解しての行動であろう、拓哉は、各部の服をビリビリにし、全装甲を露わにした。

義手、義足に加えて腹部、さらに頬の一部も人工皮膚を剥がした。

体の七割は機械化している。さらに、いくつもの銃口、刃など、武装も申し分ない。弾幕で決着をつけるつもりだろう。

どうする!?あの弾幕を避けきるのは不可能だ。頭の中で幾多もの可能性を考え、捨て、次手を考え……。

「クソッ!」

まともな対処法が思いつかない。

そこでふと鈴音との会話を思い出す。


「鈴音は絶対に狙撃を外さないが、なんでだ?」

「何も考えない事ですよ。何も考えずに、集中します。そうすると必ず"ある一線"が見えるはずです。その一線に従って、引き金を引けばいいんです」

ある一線……その時は聞いただけで終わっていた。別段それ以上考える事はなかった。

心を落ち着かせ、何も考えない……。

「どうしたァ!ついに諦めたか蓮!!」

狂った様に叫ぶ拓哉の声も段々と遠くなる。


真っ白な空間。そこには何もない。何も、塵一つ存在しない。

その中に俺は居る。すると拓哉が目の前に現れる。

動く気配がない……というよりこれはまるで時間が停止している。

「これが意識を集中させた先の世界……」

俺はハルファスをゆっくりと構え、拓哉の放つ弾幕の穴である"ある一線"に従って照準する。

様々な感情が込み上げるが、今更未練などない。

今度は俺が言う番だな……。

「さよならだ…………拓哉」

──カチッ

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