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騒擾閑化のティラトーレ  作者: いくら
人類機獣化計画
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十五節

「つぅ……」

 酷い頭痛に襲われ起き上がった俺はどうにか片目を開き、辺りを見回す。そこはもちろん水中ではなく陸であった。

「確か俺は……あの機獣から逃れるために川へ飛び込んで……それで……」

 そこで記憶が途切れる。

 どうやって陸にあがったのか疑問に思っていると……。

「お、気がついたか蓮」と聞き覚えのある声。

「拓哉ッ!!無事だったか」

「あぁ、なんとかな」

 俺は拓哉の無事を確認して安堵の息を吐く。

「気づいたらお前が川に流れてたから焦ったぜ」

 髪の毛を手でくしゃくしゃしながら拓也は言う。

「それより奴は何処に行ったんだ?」

 いくら川に飛び込み逃亡したとは言え、奴がこちらに来ていないという保証は無い。正直悪い知らせなら聞きたくはないが、四の五の言っている場合でもないだろう。

「あのデカいのか? それは俺も聞きたいくらいだな。あいついったいなんなんだよ」

 当然の反応である。あのような異生物を見て何と問わない人は恐らく居ない。

「俺もよくわからない。ただ分かるのは奴らは俺たち人間を狙っているってことだけかな」

 今まで気にしていなかったが鳥などは平然と生きているし、動物の死骸も何処にも見当たらない。恐らく奴らは人間だけを破壊対象としているのだろう。もちろんそれに巻き込まれ死ぬ生き物たちもいるのだろうけど。

 と、ここでようやく完全に覚醒し、俺は立ち上がる。

「とりあえずここから離れよう。また奴らが来るかもしれないし」

「あぁ、そうだな」

 両者一致でこの場を離れることにし、歩きながら拓哉に機獣について分かること全てを話した。

 分かっていることと言うと色々知ってそうにも聞こえるが、そう大したことではない。小型の物から大型種まで居ること、銃弾や爆発物を用いた攻撃を行えること、各々が意思を持っていることなど、まあ見ていて分かることだけだ。

 一通り説明を終えたので今度はこっちから問う。

「して、どうやってあの機獣から逃げたんだ?」

 少々動揺する拓哉。

「んあ……気づいたら居なくなっていた」

 その発言を聞いて直感的に俺は思う。

 ――ありえない。

 それは危うい感覚ではあるが、確かな物であった。多分拓哉は何かを隠している。

「そうか……」

 そうとは思っても、友人を疑うのは気が進まない。だから俺はしぶしぶ話を切った。何かを隠しているのだろうが深くは追求する気になれなかったのだ。

 そうしてしばらく沈黙が続いた。

 ここからどうするか……身近な街に行ったところでこの話を信じてもらえる訳がない。とりあえずは身の安全を確保を優先事項と置くべきであろう。

 そのまま数時間程歩き、不自然さに気づく。

「なぁ、さっきから随分歩いてるけど、こんな遠かったか?」

 拓哉も同じことを考えていたらしい。

「あぁ、確かにおかしい……」

 辺りはもう陽が暮れようとしている。出発したのは午前だったはずだ。

 幻覚かと思ったが、同じ場所を歩いてるわけでもないのでその可能性は消える。

 となると……まさか……。

「ここら一帯も焼きつくされたか……」

 残る可能性はこれしかない。拓哉を動揺させないようにあくまで平然を装って発言したが、規模が大きすぎるので案の定拓哉は愕然としていた。

 これで安全な場所への移動という一時的な目的でさえ消え去る。元から安全な場所などなかったのだから仕様が無いだろう。

 要するに、行き場がない……。

 今後の目的を考えることすらできずに、俺達はその場に立ち尽くすことしかできなかった。

そのまま夜がきた。しばらく互いの口が開くことがなかった。

すると、空がうずを巻き始めた。

また奴が来るのか……。

身構えたところで何もできない。もう気力も体力もない。

いっそのこと死んでもいいと思えてくる。

虚空の空に一つの闇が姿を顕にした。

やはりきた、あの機獣が……。

二人共動く気はない。死を覚悟している。

だが、驚くことに得意の銃弾を射出する気配がない。

変わりに超高音の振動で大気を揺るがした。

「ぐっ……」

嫌に頭に響く。拓哉も同様頭を抱えている。

すると脳に直接話しかけるかの如く、映像が流れる。

そこには真っ白な雪、それと崩れた瓦礫がいくつかある。人影は全くない。

「ここは……?」

すると奴が……機獣が現れた。

──!?

機獣が存在するということは過去ではない、まさか……。

「これが未来だというのか……?」

返答はない。当たり前である、機獣は言語能力を有さない。

木も、家も、何もない……あるのは殺風景だけだ。

「どうして……?」

そこで俺の意思を汲み取るかの如く映像が切り替わる。

人だ、だが様子がおかしい。

死体が何体もある。その一部は抉れ、肉がむき出しの状態。

血は完全に凍っている。そこに一人の人間が近寄り、ナイフで死体の腹を切り裂き始めた。

「何を……」

切り裂いた肉を持ち帰り、火で炙り始める。するとそれを食したのだ。

「食料はないのか?」

これは氷河期であろうか……ならば先程の映像の前のことか……。

また映像が切り替わる。

今度は食料を奪い合う人々だ。

人口は多いが食料の奪い合いで激しい揉め事や盗人まで……。

段々と話がつながってきた。恐らく、今後世界規模の氷河期来るのであろう。

その後、人口と食料が比例せず、醜い争いを起こし、やがて滅びる。

ここで映像が終わり、意識が引き戻される。

拓哉にも同じ現象が起こっていたはずだ。

機獣は消えていた。空もまるで何事もなかったかのように異空間が消え、闇も消滅している。

拓哉は何を思い、どう結論づけたのだろうか。

ストレートに聞くのは少々気がひける。

暫時は唖然としていた。だが、その時間もそう長くは続かなかった。

「俺は強くなる」

「え?」

いきなり拓哉が口を開いたので自然と聞き返してしまう。

「俺は強くなって奴らを……機獣を倒す」

まさかの言葉に俺は返す言葉が見当たらない。

「ここでお別れだ……蓮。今までありがとな」

今更考えなおせ等とぬかしても意味がないだろう。

俺はただ一言で返した。

「がんばれよ」

拓哉は満面の笑みを見せて踵を返し、もう二度と振り返ることはなかった。

夜闇に消える拓哉の後ろ姿はいつしか立派なものに見えた。

別れ惜しいが気持よく別れた。そのはずなのに何かが引っかかる気がしてならない。

凍てつくような悪寒が俺を取り巻くような感覚がしばらく続いた。

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