十二節
浅間の話通りなら奴はここに現れるはず……。
手短に状況を説明するが、浅間はやつらがしばし拠点としているかも知れない場所を教えてくれた。もちろんそれは俺の熱意か狂気か分からぬ程の意気込みに負けて渋々した行為だったのだろうし、一人で行くと言ったときその場の全員に反対された事は記憶に新しい。それは当然の事だろう、しかしこんな私用で結衣や鈴音を危険に晒すのは本意では無いのである。然うして浅間は俺を信じ、故に俺はこうしてその場所にを張っていた。
荒れ果てた砂地にはいくつかの廃墟と化したビルが立ち並んでいる。それを眺め、この世界にもこんな荒れ地があったのか、などと思いつつ俺は待ち伏せを続けるが、まあ、記憶の抜け落ちた俺がこっちとあっちを比較するのもおかしな話かも知れない。その違和感を拭い去る為に俺はここに来ているわけで……
待つこと小一時間、一向に標的が来る気配はなく、風だけが俺の前を通り過ぎていっていた。
半ば諦めていたその時ッ──
カチャリ……
俺の後頭部に銃口らしき物が突きつけられ、引き金に指を掛ける様な音がした。
「いつの間に……!?」
下手に動けず背後の人間が誰かもわからない状況で呟く。
「誰だ……?」
ゴクリと唾を飲み込み、返答を待つ。
「君の待ち望んでいた者だよ」
……こいつかッ!!
俺は半ば反射的に頭を斜め左に落としつつ敵の銃を所持している腕を右腕の肘打ちでずらし、左手で右腰のホルスターから愛銃ハルファスを抜き、頭部に照準。
敵は拳銃をずらされても尚冷静で、互いに逆方向に飛び、流れる様な動作で俺に照準する。
見るとやつは仮面をかぶっており、顔全体を見ることは叶わない。確認出来たのは髪は燃ゆる焔の如き紅で、身長が俺と同程度であることくらいだ。
「お前がクロウリーだな……」
込み上げてきた怒りをなんとか抑えながら低い声で俺は問う。
「そのとおり、僕がクロウリーさ」
仮面越しではやつの表情もわかりづらく、様子を伺おうにも伺えない。
「お前の目的はなんだ?」
「単刀直入に聞くねぇ蓮」
「ッ!?」
俺は絶句せざるを得なかった。奴とは初対面の上に名乗った覚えはない。
「僕のことを覚えていないのかい?」
「ふざけるなっ!! 俺を馬鹿にしてるのかっ!!」
俺は記憶がない。故に確信が持てない。
俺はやつの仮面に銃口を向け、発砲。
しかしやつは俺の行動を手に取るかの如く読んでいた。
奴も発砲し俺の放った銃弾と接触、それにより弾道はそれた。片は俺の頬を掠め、もう片方は奴の仮面にひびを入れる。
「くっ……」
まるで自分を御していたリミッターが外れたかの如くに俺はハルファスの引き金を引く。
総じて十二閃。耳をつんざく様な発砲音と共に、純粋な殺意は標的を貫くべく躍り出る。
だが、俺の目の前で信じられない事が起きた。
奴はあれだけの弾丸全てに自分の弾丸をぶつけ、弾道をずらしていた。
「なん……だと……!?」
数秒の沈黙……互いが弾切れのこの状況、次弾装填と迷ったが、俺はこの機会を逃したらやつとの間合いは詰められない……そう直感した。
やつとの距離は10メートル弱……先手必勝!!
俺は足に一気に力を込め、思い切り地面を蹴った。
さすがのクロウリーもこればかりは予想外らしく、 次弾装填を切り捨て、無理やり防御の構えをしたが時すでに遅し。
俺の拳がでやつの左頬を抉り、そのまま仮面をぶち破る。
クロウリーは数メートル程吹っ飛び、地面に倒れこむ。
確かな手応え、なぜだかこの感触には覚えがある。
砂埃が立ち煙る中、しばし沈黙が走る……。
ようやく顔の判別がつくかつかないか辺りで俺は驚愕した。
「お、お前はッ!?」