第8話 父の秘密
アイから報告が来たのは、それから五日後だった。
『リア、エルフォード侯爵とマーレン薬師の取引について、わかったことがあります』
「言って」
『取引の内容は薬です。ただし通常の薬ではない。王妃様の病気に効くとされる、希少な薬草を使った薬です』
私は固まった。
「父が、王妃様の薬を調達していた?」
『はい。ただし公式ルートではなく、非公式で。王宮の侍医を通さずに』
「なんで公式ルートを使わないの」
『王妃様の病気が公表されていないからだと思います。公式ルートで薬を調達すると、記録が残る』
私は窓の外を見た。
父が王妃様のために動いていた。でもそれを誰にも言わず、こっそりと。
「ソフィアさんに殿下の情報を伝えたのも、父なの?」
『可能性が高いです。ただし悪意があったとは限りません』
「どういうこと」
『ソフィアさんの父親は優秀な薬師です。侯爵がマーレン薬師に協力を求める代わりに、何らかの便宜を図った可能性があります。殿下がソフィアさんと接触するきっかけを作ることで、ソフィアさんの父親が王宮に出入りしやすくなる——』
「王妃様の薬を安定的に届けるために」
『はい』
私は深呼吸した。
父は悪役じゃない。ただ、誰にも言えないまま一人で動いていた。
「……殿下はこれを知らないの?」
『知らないと思います。王妃様の薬の調達を侯爵が担っているとは思っていないはずです』
「殿下に言うべきかな」
少し間があった。
『リアはどう思いますか』
「言うべきだと思う。でも父に確認してからの方がいい」
『同意します』
私は立ち上がって、部屋を出た。父の書斎に向かう。
ノックして、返事を待って、ドアを開けた。
父は書類を見ていた。私が入ってきたのを見て、少し驚いた顔をした。
「リア、どうした」
「お父様、少し聞いてもいいですか」
「……座りなさい」
向かい合って座る。父は私の顔を見て、何かを察したような目をした。
「マーレン薬師のことですか」
「はい」
沈黙。
それから父が、ゆっくりと話し始めた。
「王妃様が倒れたのは、二年前だ。侍医たちは手を尽くしたが、効果がなかった。私がマーレン薬師のことを知ったのは偶然で——彼が調合した薬が王妃様に効いた」
「それで取引を」
「表立って動けなかった。王妃様の病状が外に漏れれば、王宮の力関係が変わる。陛下を守るためには、秘密にする必要があった」
「殿下のことをソフィアさんに伝えたのも、お父様ですか」
父が少し目を伏せた。
「マーレン薬師が娘の学費を心配していた。特待生の枠は倍率が高い。私が少し……口を添えた」
「その代わりに殿下と接触させた」
「ソフィアは魔法の才能がある。殿下の悩みを聞いてやれる立場にいる。それだけだ」
私はしばらく黙った。
「お父様、これを殿下に話してもいいですか」
父が顔を上げた。
「王妃様のことが広まれば——」
「広めません。殿下だけに」
また沈黙。
「……なぜ、殿下に話したいのだ」
「殿下が一人で抱えているから。知っていれば、少し楽になると思うから」
父がじっと私を見た。
それから、ゆっくり頷いた。
「リア、お前は——昔より顔つきが変わったな」
「そうですか」
「うん。いい顔になった」
私は何も言わなかった。
部屋を出てから、アイが言った。
『お父様、いい人でしたね』
「そうだね」
『リアも、知らなかった』
「うん。ゲームの設定だけで判断してたら、気づかなかった」
『この世界はゲームじゃないですもんね』
「そう」
私は廊下を歩きながら、殿下への手紙を頭の中で書き始めた。




