表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/20

第8話 父の秘密

アイから報告が来たのは、それから五日後だった。


『リア、エルフォード侯爵とマーレン薬師の取引について、わかったことがあります』


「言って」


『取引の内容は薬です。ただし通常の薬ではない。王妃様の病気に効くとされる、希少な薬草を使った薬です』


私は固まった。


「父が、王妃様の薬を調達していた?」


『はい。ただし公式ルートではなく、非公式で。王宮の侍医を通さずに』


「なんで公式ルートを使わないの」


『王妃様の病気が公表されていないからだと思います。公式ルートで薬を調達すると、記録が残る』


私は窓の外を見た。


父が王妃様のために動いていた。でもそれを誰にも言わず、こっそりと。


「ソフィアさんに殿下の情報を伝えたのも、父なの?」


『可能性が高いです。ただし悪意があったとは限りません』


「どういうこと」


『ソフィアさんの父親は優秀な薬師です。侯爵がマーレン薬師に協力を求める代わりに、何らかの便宜を図った可能性があります。殿下がソフィアさんと接触するきっかけを作ることで、ソフィアさんの父親が王宮に出入りしやすくなる——』


「王妃様の薬を安定的に届けるために」


『はい』


私は深呼吸した。


父は悪役じゃない。ただ、誰にも言えないまま一人で動いていた。


「……殿下はこれを知らないの?」


『知らないと思います。王妃様の薬の調達を侯爵が担っているとは思っていないはずです』


「殿下に言うべきかな」


少し間があった。


『リアはどう思いますか』


「言うべきだと思う。でも父に確認してからの方がいい」


『同意します』


私は立ち上がって、部屋を出た。父の書斎に向かう。


ノックして、返事を待って、ドアを開けた。


父は書類を見ていた。私が入ってきたのを見て、少し驚いた顔をした。


「リア、どうした」


「お父様、少し聞いてもいいですか」


「……座りなさい」


向かい合って座る。父は私の顔を見て、何かを察したような目をした。


「マーレン薬師のことですか」


「はい」


沈黙。


それから父が、ゆっくりと話し始めた。


「王妃様が倒れたのは、二年前だ。侍医たちは手を尽くしたが、効果がなかった。私がマーレン薬師のことを知ったのは偶然で——彼が調合した薬が王妃様に効いた」


「それで取引を」


「表立って動けなかった。王妃様の病状が外に漏れれば、王宮の力関係が変わる。陛下を守るためには、秘密にする必要があった」


「殿下のことをソフィアさんに伝えたのも、お父様ですか」


父が少し目を伏せた。


「マーレン薬師が娘の学費を心配していた。特待生の枠は倍率が高い。私が少し……口を添えた」


「その代わりに殿下と接触させた」


「ソフィアは魔法の才能がある。殿下の悩みを聞いてやれる立場にいる。それだけだ」


私はしばらく黙った。


「お父様、これを殿下に話してもいいですか」


父が顔を上げた。


「王妃様のことが広まれば——」


「広めません。殿下だけに」


また沈黙。


「……なぜ、殿下に話したいのだ」


「殿下が一人で抱えているから。知っていれば、少し楽になると思うから」


父がじっと私を見た。


それから、ゆっくり頷いた。


「リア、お前は——昔より顔つきが変わったな」


「そうですか」


「うん。いい顔になった」


私は何も言わなかった。


部屋を出てから、アイが言った。


『お父様、いい人でしたね』


「そうだね」


『リアも、知らなかった』


「うん。ゲームの設定だけで判断してたら、気づかなかった」


『この世界はゲームじゃないですもんね』


「そう」


私は廊下を歩きながら、殿下への手紙を頭の中で書き始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ