第6話 黒幕の影
アイが候補を絞るのに、三日かかった。
『リア、報告があります』
「言って」
『殿下の魔法適性をソフィアさんに伝えられる立場の人間、三名に絞れました』
放課後の自室で、私は羊皮紙とペンを用意した。前世のメモ癖が抜けない。
「誰と誰と誰」
『一人目、殿下の魔法指導官であるクロード・ハーヴェイ卿。六十二歳、王宮勤め三十年。二人目、侍従長のバートン。殿下の日常を最も近くで管理している人物。三人目——』
アイが少し間を置いた。
「三人目は?」
『アルヴァーノ侯爵。リアのお父様です』
ペンを持つ手が止まった。
「……父が?」
『殿下の魔法適性は宮廷内でも極秘扱いですが、侯爵位以上の貴族には開示されている可能性があります。エルフォード侯爵はその条件を満たしています』
「なんで父がそれをソフィアに教えるの。動機がない」
『現時点では不明です。ただ——』
「ただ?」
『エルフォード侯爵は最近、ソフィアさんの父親である薬師マーレン氏と取引をしています』
私は羊皮紙にそれを書き留めた。
薬師と侯爵。接点がない二人が取引をしている。
「何の取引?」
『わかりません。ただ取引の量が、通常の薬の調達にしては多すぎます』
「調べられる?」
『難しいです。取引記録は侯爵の私文書になるので、外からは見えない』
私はペンを置いて天井を見上げた。
父が関わっているとしたら、話が大きくなる。ゲームでは父親はただの背景キャラだったのに。
「アイ、ゲームの設定で父に関するイベントはあった?」
『ありません。エルフォード侯爵はリアが断罪された後、爵位を返上するという後日談があるだけです』
「爵位の返上……それって断罪の責任を取るってこと?」
『そう解釈されていましたが——別の理由がある可能性もあります』
私はしばらく考えた。
ゲームはヒロイン視点で作られている。悪役令嬢の父親の真意なんて、描写されない。
「アイ」
『なに』
「このゲームの世界、思ったより深いな」
『リアが思ってたより、ということですね』
「そう」
『私はそう思ってませんでした』
「なんで」
『だって生きてる人間がいる世界なので。ゲームより複雑なのは当然だと思ってました』
私は少し笑った。
こいつ、たまにすごく真っ当なことを言う。
「まず情報を集める。父のことは慎重に。ソフィアさんには今は言わない」
『同意します』
「殿下には?」
少し間があった。
『リアはどうしたいですか』
「……会って、話を聞きたい」
『それは断罪回避のため?』
「それだけじゃないかもしれない」
『わかりました。面会の申請、しますか』
「自分でする」
『頑張ってください』
「なんかお母さんみたいなこと言わないで」
『お母さんではないですが、応援はしてます』
羊皮紙に書いた三つの名前を見つめながら、私は殿下への手紙を書き始めた。




