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第4話 殿下が隠していること

翌朝、城に向かう馬車の中で、私はずっとそわそわしていた。


自覚はある。落ち着かない理由も、なんとなくわかってる。


「アイ」


『なに』


「昨日殿下が書き直した手紙の件、もう少し詳しく教えて」


『最初に「もちろん」と書いたのを消して「明日、いつでも」に変えた、それだけです。それ以上の情報はないです』


「なんで書き直したと思う」


『わかりません。ただ——』


「ただ?」


『「もちろん」の方が、素直な反応だと思います』


私は窓の外を見た。街並みが流れていく。


「素直な反応を、わざわざ直したってこと」


『はい。見せたくなかったのか、見せるのが恥ずかしかったのか。どちらかだと思います』


「……どっちだと思う」


『リアはどっちだと思いますか』


「私に聞き返すな」


『だって私にはわからないので』


珍しく正直だな、と思った。アイはいつもすぐ答えを出すのに。


『リア、緊張してます?』


「してない」


『心拍数が上がってます』


「馬車に揺られてるから」


『馬車には毎週乗ってますが、こんな数値になったことはないです』


「……うるさい」


アイが何も言わなかった。でも、なんとなく笑っている気がした。AIが笑うかどうかは知らないけど。


---


城の応接室は、いつもと同じだった。


白い壁、高い天井、窓から差し込む午前の光。ルシアン殿下はすでに座っていた。


「来てくれたね」


「お時間をいただいてありがとうございます、殿下」


向かい合って座る。紅茶が運ばれてくる。侍従が下がる。


部屋に二人きりになった。


殿下が口を開いた。


「手紙を送ってきたのは初めてだね、リアから」


「はい」


「何か、あった?」


私は少し考えてから、正直に言うことにした。


「殿下がソフィア・マーレンと話しているのを見ました」


殿下の表情が、微妙に変わった。


「……それで?」


「それだけです。責めているわけじゃないです」


『本当に責めてないですか』


「本当に」


「え?」


殿下が首を傾けた。また独り言が漏れた。


「すみません、独り言です。あの、殿下。一つ聞いてもいいですか」


「どうぞ」


「彼女と何を話してたんですか」


沈黙。


殿下は紅茶のカップを見つめたまま、少し考えた。


「……魔法の話」


「魔法?」


「彼女の魔法適性がSだと聞いて、少し興味があって」


『嘘ではないです。ただ、全部じゃない』


全部じゃない。


私は続きを待った。前世でわかったことを思い出す。人が話したいときは、余計な相槌を打たない方がいい。


殿下が、静かに続けた。


「……俺の魔法適性は、Cだ」


「存じています」


「王太子として、それは——都合が悪い」


窓の外で、鳥が一羽飛んでいった。


私はゆっくりと口を開いた。


「殿下は、それを誰かに話したことがありますか」


「ない」


「では、私が二人目ですね」


殿下が顔を上げた。


「不思議だね、リアは」


「何がですか」


「俺のことを責めると思ってた。ソフィアと話していたことを、ヒステリーを起こして——」


「しません」


きっぱり言った。


「私は殿下が平民の女の子と話したくらいで怒鳴り込んでくる人間じゃないです。そういうキャラじゃないので」


殿下が目を丸くした。それからゆっくり、今度は自然な笑顔で笑った。


面会が始まって初めて見る、作っていない顔だった。


『リア』


「なに」


『今の殿下の笑顔、中庭でソフィアさんに向けていたのと、同じです』


「……そう」


『うん』


私は紅茶を一口飲んだ。温度がちょうどよかった。


「殿下、魔法の訓練はどこでされていますか」


「城の訓練場。毎朝」


「一人で?」


「指導官はいるが——あまり、見せたくない」


「そうですか」


私は少し考えてから言った。


「私の父の知人に、魔法適性が低くても独自の鍛錬法で宮廷魔法師になった方がいます。よければ文献を探してみます」


殿下がまた静止した。


「……なんで、そこまで」


「婚約者なので」


短く答えた。それ以上でも、それ以下でもない。


でも頭の中でアイが、小さく言った。


『本当にそれだけ?』


「……うるさい」


「え?」


「なんでもないです」


---


帰りの馬車の中で、私はずっと黙っていた。


アイも珍しく黙っていた。


しばらくしてから、アイが静かに言った。


『ねえ、リア』


「なに」


『殿下、いい人だと思いませんでした?』


「……普通に話せる人だと思った」


『それって、思ってたより、って意味ですよね』


「そうかもしれない」


『ゲームのキャラより、ずっと』


「……そうかもしれない」


また沈黙。


馬車が屋敷の門をくぐった。夕暮れの空が、オレンジと青の間くらいの色をしていた。


『リア、一個だけ聞いていい?』


「なに」


『もし断罪エンドが最初からなかったとしても、殿下のこと、知りたかったと思う?』


私は答えなかった。


答えなかったけど、否定もしなかった。


アイはそれ以上何も言わなかった。ただ、なんとなく——また笑っている気がした。


「第5話からは、ちゃんと作戦を立てるから」


『うん。楽しみにしてます』


「作戦の話だよ」


『わかってます』


絶対わかってない。

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