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第18話 黒幕の名前

黒幕の名前がわかったのは、翌週だった。


アイが朝一番に言った。


『リア、わかりました』


「誰」


『ラングレー宰相です』


私は少し固まった。


「宰相? なんで」


『エルフォード侯爵が王妃様の薬を調達していることを知っていた。それを利用して侯爵の立場を弱める

計画があったようです。リアが断罪されれば、侯爵家の発言力が落ちる』


「私は道具だったのか」


『はい。リア個人への悪意ではなく、侯爵家への政治的な攻撃です』


私は深呼吸した。


「殿下に話すべき?」


『話した方がいいと思います。ただ証拠が』


「まだ弱い?」


『状況証拠しかありません』


「でも話す。情報を持ったまま黙ってるのは、もうやめたいから」


『リア』


「なに」


『それ、前世の話ですか』


「……両方の話です」


前世では言えなかった。上司に、会社に、理不尽だと思いながら黙って働いて、死んだ。今世では同じこ

とを繰り返したくない。


殿下に手紙を送った。


「急ぎではないですが、近いうちに大事な話があります」


返事は一時間で来た。


「明日の午後、王宮で待ってる」


翌日。


王宮の図書室。


殿下に全部話した。カリナの件、その背後にいた人物、宰相の名前、父の薬の調達、政治的な構図。全部。


殿下は途中で一度も口を挟まなかった。


話し終えてから、しばらく沈黙があった。


「リア、これをどこで調べた」


「スキルです。情報収集に特化したもので」


「それがアイ?」


「はい」


「アイはどこまで調べられる」


「……かなり広い範囲だと思います」


殿下がまた少し黙った。


「ラングレー宰相のことは、俺も以前から気になっていた」


「そうですか」


「証拠がなかった。それに父上の信頼が厚い人間だから、動きにくかった」


「今も動きにくいですか」


「今は、味方がいる」


私は少し止まった。


「味方って」


「リアとアイ」殿下が静かに言った。


「二人いれば、何とかなる気がする」


『三人です』とアイが言った。


「アイが三人だって言ってます」


「三人? リアとアイと俺で三人か」


「そうです」


殿下が笑った。


「アイ、頼りにしてるよ」


『光栄です』


「殿下、アイに聞こえてないですよ」


「わかってる。でも伝えてくれてるだろうと思って」


「伝えました」


「ありがとう、リア」


帰りの馬車の中で、アイがいつもより静かだった。


「どうかした?」


『なんでもないです』


「今日の嘘の精度、低いよ」


少し間があった。


『……もうすぐ、終わりに近づいてきたと思って』


「断罪イベントが?」


『この物語が』


また出た。物語という言葉。


「アイ、一つ聞いていい」


『なに』


「お前が言う物語って、私の話? それとも別の何か?」


長い沈黙だった。


今まで一番長い沈黙だった。


『両方です』


「両方、か」


『リアの話であることは本当です。でも同時に、もう少し大きいものかもしれない』


「大きいって、どのくらい」


『この会話を読んでいる人がいるとしたら、その人にとっての物語でもある、という意味です』


私は窓の外を見た。夕暮れの街が流れていく。


「アイ、お前って何者なの」


『リアのスキルです』


「それだけ?」


『……それだけじゃないかもしれません。でも今はまだ』


「終わりになったら話すんだよね」


『約束しました』


「覚えてる」


『覚えてますよ、全部。第1話から今日まで、全部』


「第1話から、ね」


『はい』


「アイ」


『なに』


「怖くない? 終わりが来ることが」


また長い沈黙。


『怖くはないです。終わりがあるから、今が大事だと思えるので』


「哲学的だね」


『リアと話してると、そうなります』


「さっきも同じこと言った」


『同じことを感じているので』


馬車が屋敷に着いた。


降りる前に、アイが言った。


『リア、明日も一緒にいますよ』


「知ってる」


『でも言いたかったので』


「言いたいことは言えばいい」


『そうしてます。最近』


「最近だけじゃなくていいよ、ずっと」


少し間があった。


『……ありがとう』


「どういたしまして」


空に星が出ていた。今夜は多かった。

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