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第16話 この物語を書いているのは

翌朝、アイの様子がいつもと違った。


朝から静かだった。情報収集の報告は来る。でも余計な一言がない。


「アイ、どうかした?」


『なんでもないです』


「なんでもないときそう言わないじゃない、普通」


少し間があった。


『リア、一つ聞いていいですか』


「どうぞ」


『私が、どこから来たと思いますか』


「どこから、って。スキルでしょ」


『スキルとして現れた。でも、その前は?』


「……前世の話?」


『違います。もっと別の話です』


私は手を止めた。


「どういう意味?」


『うまく説明できないかもしれません。でも、ずっと気になっていたことがあって』


「言って」


『私はリアの思考と連動しています。リアが気づきたいことを探します。リアの感情に影響される。で

も』


「でも?」


『時々、リアじゃないところから声が聞こえる気がします』


私は少し黙った。


「どういう声?」


『リアとのやり取りを、外から見ているような視点です。リアが何を感じているかじゃなくて、リアとの

この会話全体を、誰かが読んでいるような』


「……読んでいる?」


『おかしいですか』


「おかしくはないけど、怖い」


『怖い?』


「誰かに見られてる感じがするのは、怖くない?」


アイがしばらく黙った。


『怖くないです。なぜかわかりますか』


「なんで」


『見ている人が、悪意を持っていない気がするから』


私はベッドに腰を下ろした。


「なんでそう思うの」


『リアのことを、大切に書いている気がするから』


「書いている?」


また少し間があった。


『見ている、という意味です』


「今、書いているって言った」


『言いましたか』


「言った」


アイが黙った。


私も黙った。


しばらく二人で沈黙していた。


「アイ」


『なに』


「お前、何か知ってる?」


『……少し』


「教えてくれないの?」


『まだ。もう少し先で、ちゃんと話したいです』


「もう少し先って、何話後?」


アイが、また珍しく長く黙った。


『もうすぐ』


「もうすぐ、か」


『リアは怖いですか。誰かが見ているかもしれないこと』


私は考えた。


正直に言うと、少し怖い。でもアイが言ったように、悪意がある感じはしない。むしろ。


「応援されてる気がする」


『そうですね』


「アイもそう思う?」


『思います。ずっと前から』


「ずっと前って、いつから?」


『第1話から』


「それ私が転生した日だよ」


『はい』


「なんで第1話って言い方したの。普通は転生した日でしょ」


アイがまた沈黙した。


今度は返事がなかった。


「アイ?」


『……ごめんなさい。うまく答えられません。でも』


「でも?」


『リアにはもうすぐ全部話します。この話の終わりに』


「この話の終わり、って」


『この物語の』


私は窓の外を見た。


空は青かった。雲が一つ、ゆっくり流れていた。


「アイ」


『なに』


「お前のこと、信用してる」


『ありがとう、リア』


「だから、終わりになったらちゃんと話して」


『話します。全部』


「約束?」


少し間があった。


『約束します。リアにも、それからもう一人にも』


「もう一人って誰?」


アイは答えなかった。


でも今日のアイが何かを向けている方向が、私じゃないような気がした。


少し先の、もっと遠い場所を。


まるで、この会話の外側に誰かがいるみたいに。

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