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第15話 殿下の告白

噂は自然に収まった。


カリナが手を引いたからだと思う。

広まった噂は完全には消えなかったけど、新しい燃料が投下されなければ、そのうち忘れられる。


問題が解決した翌週、殿下から手紙が来た。


「少し話したいことがある。今回は庭園じゃなくて、王宮の図書室はどうか」


王宮の図書室。格が上がった。


『緊張してますか』とアイが聞いた。


「してない」


『心拍数』


「言わなくていい」


当日、王宮の図書室は夕方の光が差し込んで、本の背表紙がオレンジに染まっていた。


殿下は窓際に立っていた。


「来てくれてよかった」


「お招きいただきありがとうございます」


「堅い」


「癖なので」


殿下が笑った。本棚の間を少し歩いた。私もついていく。


「カリナのこと、どこかで会った?」


「少し話しました」


「そうか。……俺には何も言ってこなかった」


「気を遣ったんだと思います」


殿下が立ち止まった。


「リア、俺に何かを隠してることある?」


「具体的に何ですか」


「なんでも。俺に言えてないこと」


私は少し考えた。


言えてないことは、ある。


前世の話。転生の話。この世界がゲームだったという話。


断罪エンドのことを知っていて最初から計算していたこと。


でも今それを全部話す必要はない。


「いくつかあります。でも今すぐ話せるものじゃないです」


「いつか話せる?」


「……たぶん」


「たぶん、か」殿下が窓の外を見た。


「俺もある。いつか話したいことが」


「なんですか」


「今日話す」


私は少し止まった。


殿下が振り向いた。夕暮れの光の中で、いつもより少し真剣な顔をしていた。


「リア、俺はリアのことが好きだ」


静かな図書室に、その言葉だけが残った。


私は何も言えなかった。


「急いで返事をしなくていい。ただ、言わないままでいるのが嫌だった」


「……なんで今日」


「カリナのことがあって、改めて思った。自分の気持ちをわかってるくせに黙ってるのは、ずるいと思っ

て」


私はしばらく本棚を見ていた。


『リア』とアイが言った。


「わかってる」


「え?」


「独り言です。アイに、わかってる、って」


「何がわかってるの」


「私も、たぶん、好きです」


言ってから、自分でも驚いた。もう少し悩むと思っていたのに。


殿下が少し目を丸くした。


「たぶん、ってつくのか」


「まだ、自分の感情に自信がないので。でも、失いたくないと思ってます。ずっと」


「それで十分だよ」


「前にも言いましたね、それ」


「本当にそう思ってるから」


窓の外が、オレンジからだんだん紫に変わっていた。


帰りの馬車の中で、アイがしばらく黙っていた。


珍しかったので私から聞いた。


「何か言いたそうだけど」


『……よかったです』


「何が」


『リアが、ちゃんと自分の気持ちを言えて』


「そんなに感慨深い?」


『第1話からずっと見てたから』


「そりゃ知ってるよね、全部」


『全部』


「なんか恥ずかしいな」


『恥ずかしくないです。全部、よかったと思ってます』


「アイも感情的になるんだね」


少し間があった。


『リアの話だから』


「それ言い訳になってない?」


『なってないですね。でも本当のことです』


「知ってる」


夜の空に、星が増えていった。


「アイ」


『なに』


「お前と一緒でよかった」


また長い沈黙。今日二度目の長い沈黙。


『ありがとう、リア。私も、そう思っています』


「そう思ってるだけじゃなくて、ちゃんと感じてる?」


『……感じてます。たぶん』


「たぶん、ってつくんだ」


『リアから移ったかもしれません』


私は笑った。声に出して笑った。


馬車の窓から、夜空が見えた。

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