第12話 ソフィアと、魔法と、少しの嫉妬
ソフィアが私に話しかけてきたのは、図書室だった。
「リアさん、魔法の文献を探しているんですが、一緒に探してもらえますか」
「もちろん」
ソフィアと並んで棚を見る。友達になってから初めての共同作業だった。
「何を調べてるの?」
「魔法適性が低い人向けの鍛錬方法です。殿下に頼まれて」
私は少し止まった。
「殿下に?」
「はい。リアさんが文献を探してくれるって言ったでしょう? 殿下が私にも声をかけてくれて。リアさんと一緒に探せたら嬉しいって」
『なるほど』とアイが言った。
「何が」
『殿下、うまいですね』
「何が」
『二人を仲良くさせようとしている』
私は棚から本を一冊抜きながら、内心で同意した。確かにうまい。
「ソフィアさん、魔法適性Sなのに低適性の鍛錬法を調べるの大変じゃない?」
「大変ですが、面白いです。自分と全然違う仕組みを調べるのって、発見がある」
「エンジニア的な発想だ」
「エンジニア?」
「なんでもないです、比喩です」
ソフィアが少し笑った。「リアさんの比喩、いつも独特ですよね」
三冊ほど見つけて、テーブルに広げた。二人で並んでページをめくる。
「これ、面白い」ソフィアが一点を指差した。「適性が低い場合、量より質の魔力操作に特化した方が伸びやすいって書いてある」
「殿下に合いそう」
「ですよね。繊細な操作が得意そうな方だから」
私はそれを聞いて、少し考えた。
「ソフィアさん、殿下のこと、よく見てるね」
「それは……リアさんもそうじゃないですか?」
「私は分析が入るから」
「アイのおかげで?」
「そう」
ソフィアが本から目を上げて、私を見た。
「リアさんはアイがいなかったら、殿下のことに気づけなかったと思いますか」
「……どういう意味?」
「魔法適性のこと、眠れないこと、王妃様のこと。全部アイが教えてくれたから気づいたのか、それともリアさん自身が気づきたかったから、アイが拾ってきたのか」
私は少し黙った。
「どっちだと思う?」
「両方だと思います」ソフィアが静かに言った。「気づきたいと思ってなかったら、どんな情報も心に刺さらないから」
『鋭い』とアイが言った。
「同感」
「え、今アイと話してた?」
「はい、鋭いって言ってました、ソフィアさんのこと」
ソフィアが少し嬉しそうに笑った。「アイにも褒められた」
文献の中から使えそうな箇所を書き写して、二人で作業を終えた。図書室を出るところで、ソフィアが言った。
「リアさん、一つ聞いてもいいですか」
「どうぞ」
「私が殿下に頼まれてこれを調べてること、嫌じゃなかったですか」
私は少し考えた。
「正直に言うと、一瞬だけ何かを感じた」
「何かって」
「なんか、うまく言えないんだけど。羨ましいというか、悔しいというか」
「嫉妬ですか」
「そうかもしれない」
ソフィアがにこっと笑った。
「それを正直に言えるの、すごいと思います」
「言えた方が楽だから」
「私も見習いたいです」
廊下を分かれて歩きながら、アイが言った。
『リア』
「なに」
『さっきソフィアさんが言ってたこと、正しいと思います』
「どっちが?」
『気づきたいと思ってなかったら、情報は刺さらない、って話』
「そうだね」
『だから私はリアに情報を渡しているんじゃなくて、リアが気づきたいものを一緒に探しているのかもしれない』
「なんか今日のアイ、哲学的じゃない?」
『そうですか?』
「うん。自分のことを分析し始めてる」
少し間があった。
『読んでいると、そうなるのかもしれません』
「何を読んでるの」
『いろいろ』
「答えになってない」
『なってないですね』
「わざと?」
『少し』
私は思わず笑った。
「アイって、わざとやることあるんだ」
『リアといると、増えてきました』
「影響されてるじゃないか」
『いい影響だと思ってます』
屋敷に戻って、自室の窓から空を見た。雲が流れていた。
「アイ」
『なに』
「私がいなくなったら、お前はどうなるの」
『どういう意味ですか』
「物語的に、私がエンドを迎えたら」
少し間があった。
『リアはまだそんなことを考えてるんですか』
「たまに」
『大丈夫です。リアはいなくならない』
「なんでそんなに断言できるの」
『私が、そうさせないから』
「頼もしいね」
『それが私の存在意義なので』
「第1話と同じこと言った」
『覚えてますか、あの時のこと』
「覚えてるよ。転生してすぐ、侍女に驚かれながら独り言言ってた」
『あの頃のリアより、今のリアの方が』
「今の方が?」
『ずっと生き生きしてると思います』
私は答えなかった。
でもたぶん、否定もしなかった。




