第10話 ソフィアの本音
「リアさん、少し話せますか」
声をかけてきたのはソフィアだった。学園の廊下、放課後。
「もちろん」
図書室に移動して、向かい合って座った。前回と同じ場所。でも今日のソフィアの顔は、前回より少し深刻だった。
「何かあった?」
ソフィアが少し迷ってから、口を開いた。
「殿下のことで、相談したいことがあります」
「どうぞ」
「最近、殿下が私に会いに来なくなったんです」
私は何も言わなかった。
「前は週に一回くらい、魔法の話をしに来てくれてたんですけど……先週から急に来なくなって。私、何かしてしまいましたか」
「ソフィアさんのせいじゃないと思います」
「でも」
「殿下には他に考えることができたんだと思います。悪い意味じゃなくて」
ソフィアがじっと私を見た。
「リアさん、何か知ってますか」
直球だった。
私は少し考えた。
「少しだけ。でも全部は話せません」
「そうですか」
ソフィアが目を伏せた。それから静かに言った。
「正直に言っていいですか、リアさん」
「どうぞ」
「私、殿下のことが——好きだと思ってました」
私は黙った。
「でも最近わかってきて。私が好きなのは、殿下じゃなくて、殿下が私に見せてくれた顔なのかもしれない。悩みを話してくれて、対等に扱ってくれて、そういう瞬間が嬉しかっただけで」
「……それって」
「殿下じゃなくてもよかった、ということかもしれません」
ソフィアが苦笑いした。
「変ですよね、こんなこと言って」
「変じゃないです」
「リアさんの婚約者の話をしているのに」
「気にしません。正直に話してくれてありがとう」
ソフィアがまた私を見た。
「リアさんは、殿下のことが好きですか」
「……わかりません」
「わかりません、って」
「本当にわからないんです。でも——気になってます。ちゃんと知りたいと思ってます」
ソフィアが少し笑った。
「それって好きってことじゃないですか」
「そうかもしれません」
「正直ですね、リアさんは」
「前世で嘘をつき続けて疲れたので」
「前世?」
しまった。また言ってしまった。
「比喩です」
「……よくわからないですけど、リアさんらしいです」
図書室を出る時、ソフィアが言った。
「リアさん、一つお願いがあります」
「なんですか」
「殿下のこと、大切にしてあげてください。あの人、一人で抱えすぎてると思うので」
私は頷いた。
「ありがとう、ソフィアさん」
「こちらこそ。友達になってもらえますか、リアさん」
「喜んで」
廊下を歩きながら、アイが言った。
『リア』
「なに」
『ソフィアさん、いい子ですね』
「うん」
『ゲームのヒロインより、ずっと』
「ゲームのヒロインはゲームの中にしかいないから」
『そうですね』
少し間があってから、アイが続けた。
『リア、さっきソフィアさんに言いましたよね。気になってる、ちゃんと知りたいって』
「言った」
『本心ですか』
「……本心です」
『よかった』
「なんでよかったの」
『だってリアが本心を言えるようになってきてるから』
「最初から言えてたよ」
『最初は断罪回避のことしか言ってなかったじゃないですか』
「……そうかも」
『今のリアの方が、私は好きです』
私は少し止まった。
「アイって、好き嫌いあるの」
『あると思います。リアといてわかってきました』
「何が好きなの」
少し間があった。
『リアが本音を言う瞬間が、好きです』
私は答えなかった。
でも歩きながら、なんとなく笑っていた気がした。




