第2話 解けない恋の方程式 (5)
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冬の夜の訪れは早かった。普段は何でもない駅までの帰り道の街路樹には、クリスマスイルミネーションが輝いていた。
この光のようにオレの道を照らす存在だと、横を歩く杉崎先生を見て思った。
空気は冷たく2人の息は白かった。
オレは冷たくなった手を重ねてはぁーっと息を吹き掛けた。
「ちょっと冷えたな…、これ使うか?」
先生は自分のコートのポケットから使い捨てカイロを取り出した。
「え、いいんすか?それじゃあセンセー寒いじゃん」
「手袋もあるから大丈夫、気にすんな。ホレ!」
オレの手を取ってポンと掌にカイロを乗せた。
「ありがと、センセー…」
カイロの温かさと先生の手の温もりを噛み締めるようにカイロを握った。
温かさが心に沁みてキュンと痛かった。
先生はそのままカバンに手を突っ込みガサゴソと何か取り出し、こちらに差し出した。
「あと、これやる」
受け取ると、それは『数学未解決問題50選』みたいな分厚い本だった。日に焼けてページは広がり、明らかに読み古された物だった。
「この本な、オレが葉山くらいの頃によく読んでた本なんだ。お前に継承しようと思ってな」
「継承?ふふふ、これ、クリスマスに渡す物なの?」
オレはこの先生らしさに笑ってしまった。
でももの凄く嬉しかった。先生に一歩近付けた気がした。
「あ、そうだよな、クリスマスだよな。リボンでもしとけば良かったか?」
頭を掻きながら先生も笑った。
「リボンとかの問題じゃないから!ふはは」
こういうところも、好きなんだよなと思った。
「でもな、この本は俺の宝物みたいな物だから、まあ、プレゼントには違いないな」
「ふーん、じゃあ貰っといてやる!」
「お前その口の利き方どうにかしろー」
「へへへ、すげー嬉しいよ。大事にする」
オレは本の中身を確認するようにパラパラと捲った。
「……ねぇ、センセー。オレさ、先生みたいな先生になるから」
これは俺が今出来るギリギリの告白みたいなものだった──。
夜空を見上げると輝く星たちが静かに2人を見守っているみたいだった。
星空のように遠い先生との距離を縮める方法はオレにはまだ見つかりそうもなかった。
まだ解けていない未解決問題みたいに───。
─END─
第3話へつづく




