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第2話 解けない恋の方程式 (3)

****

 

 冬休みの1年の補習にはオレの他に2人が講師として手伝いに来ていた。

 

 赤点を取ってしまった生徒は思いの外多く、教室が埋まりそうなくらいだった。確かに教師1人では手が足りない訳だ。

 

「──説明は以上です。そしたら、分からない問題あったら手上げてね」

 

 杉崎先生の説明が終わると間もなくチラホラ手が上がり始めた。すると杉崎先生がオレの耳元で指示を出した。


「葉山、お前あの子頼んだ。数学のルールから疑問持っちゃう子なんだけど、お前も中学ん時そういうところあったから分かってあげられるんちゃうかな」


 杉崎先生の飾り気のない香りを久しぶりに感じた。温かい息が耳に触れ、囁く声が頭の奥に響く。血が一気に昇りクラクラする。

 

 オレは取り敢えず頷いて、その子の方へ向かった。

 1回深呼吸をして落ち着かせてから教える必要があった。

 


「この問題なんですけど…」

 

「うん…、途中式まであってるから、こっちの式から先に解いてから、こっちをさ、こうして──」


「あー、分かった!そういうことなんですね。順番とかちょっと混乱します」

さっきまで曇った表情だった彼の顔がパッと輝いた。

 

「誰が決めたの?って思っちゃう時あるんですよね。先ずマイナス×(かける)マイナスはプラスになるとか、中学の時に先生に聞いたら『そう決まってるから覚えて』としか答えてくれなくて、俺納得いかなくて…そしたらもう数学やる気無くなっちゃったんですよ。で、苦手科目になったんです」


「うわ、分かるよ!オレもそこ納得いかなかった。え、じゃあさ、そこ説明してやるよ。ちょっと長いよ」



そう言ってオレは説明しながら、中学の頃同じことを杉崎先生に教えて貰った時のことを思い出していた。


あの塾の自習室で夢中で耳を傾けた。杉崎先生はただルールを押し付けるのではなく、答えてくれる初めての先生だった。


 説明を聞いて心の引っ掛かりが取れ、その事が切っ掛けで一段と数学が得意になれた。

 この1年生にもそんな体験になって欲しいと思った。



「──ってことなんだ。どう?分かったかな?」


「ちょっとややこしいけど、ちゃんとした理由があることは分かりました。先輩はスルーしないで答えてくれるんですね。そこが1番嬉しかったです」


きらきらした笑顔にオレが嬉しくなっていた。



 ふと目線を上げると、その先で杉崎先生が『やったな!』と言うようにニコッとして親指を立てた。



 オレはその後も何人かの生徒に教えた。問題を解けるようになるとみんな晴れやかな表情になった。

 単純だけれど、人に教えることの喜びを知った気がした。


 杉崎先生のような先生になりたいと思った。











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